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【始めに】
 
股関節の運動、制御に関わる筋肉は全部で24筋あります。これらの筋肉が絶妙なタイミングで働き、歩く、走る、立ち上がるといった基本的な動きを支えています。身体の中にある動力源となる組織はこの「筋肉」しかありません。この筋肉が硬化したり、または部分的に変性または瘢痕などが生じると”痛み”の原因になります。
股関節に関わる筋肉について解説していきます。
また、臨床での重要度が高い順に◎→〇→△とマークを付けていきます。

【股関節屈筋群】
 
股関節屈筋群は大腰筋、腸骨筋、小腰筋からなります。大腰筋と腸骨筋は総称して「腸腰筋」と呼ばれることもあります。
 
大腰筋、小腰筋

1.大腰筋 重要度◎
起始:第12胸椎から第5腰椎の椎体外側面とその間の椎間円板
   全腰椎の肋骨突起と第12肋骨
停止:大腿骨の小転子
 
作用:股関節屈曲、外旋、腰椎側屈、腰椎の安定
 
大腰筋の筋腹は鼠経靭帯の高さ付近まで存在し、この高さより遠位ではほとんど存在しない¹)といわれています。断層解剖カラーアトラスによると大腰筋の筋腹は第3~第5腰椎レベルで最も太くなっています。この辺りの筋肉は前方に内臓があり後方は皮下7~10cmの深さにあり筋電図の針を入れるのは容易ではありません。このような事情から多くの専門書による大腰筋の作用は、「股関節屈曲」のみとなっています。
大腰筋は股関節内・外旋の作用がありますが、わずかなモーメントアームであり、股関節における内外旋の活動はごくわずかでしかありません。
 
大腰筋は腰椎の側面に位置しています。筋電図による分析では、体幹を屈曲する動作では大腰筋の活動がわずかしか活動していないにも関わらず、立ち上がりや背臥位での下肢挙上運動ではより多く作用していることが明らかになりました。
また、モーメントアームや筋電図による分析から、体幹の側屈作用を有していることが明らかになってきました。大腰筋は側臥位で体幹を起こす際に求心性収縮を行い、立位で反対側に側屈する際には遠心性収縮を行います。
 
20~79才の女性を対象にした研究では、大腰筋の生理的断面積が50才以降では明らかに減少すると報告されてます。筋力が低下すると階段昇降が困難になったりバランスが不安定になることがあります。
 
2.小腰筋 重要度△
起始:第12胸椎と第1腰椎の椎体外側面
停止:腸骨筋膜から腸恥隆起
作用:不明
 
一般に小腰筋は股関節の屈筋に分類されますが、大腿骨に付着せず股関節の動きには関与しません。ヒトでは40%以下で確認され欠損している人も多くいます。
大腰筋と比べて、小腰筋は非常に小さく筋力は弱いといわれています。
 
腸骨筋
 
3.腸骨筋 重要度◎
起始:腸骨窩
停止:小転子
作用:股関節屈曲
 
腸骨筋は大腰筋、大腿筋膜張筋、恥骨筋と筋連結しています。
また、いくつかの線維は小転子のやや遠位の関節包に付着しています。
起始部の腸骨窩は浅いお皿のようなくぼみでこの腸骨窩全域に起始部が付着しています。ヒトがあお向けに寝た場合、お腹側から背中側に付いており、お腹側より背中側の方が筋腹が太くなっています。
腸骨筋は生理的断面積が大腰筋と同等かそれ以上に大きいといわれています。このことから大腰筋とともに股関節屈曲の主動作筋となります。
 
腸骨筋と大腰筋の間に大腿神経が走行しており腸骨筋のスパズムにより大腿神経痛が引き起こされるケースがあります。
 
臨床ではこの腸骨筋のスパズムにより大腿神経痛の他に鼠径部痛、腰痛、臀部痛、深くかがめない等の問題が起こります。
【股関節伸筋群】
 
股関節伸筋群は大殿筋、大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋から成ります。
大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋を総称して「ハムストリングス」と呼びます。
 
大殿筋

1.大殿筋 重要度○
起始:後殿筋線の後方、仙骨外側縁、尾骨外側縁、胸腰筋膜、仙結節靭帯
停止:腸脛靭帯、大腿骨の殿筋粗面
作用:股関節の伸展、外旋、内転、外転
 
大殿筋は生理的断面積が腸骨筋より少なくとも30%以上大きいといわれています。女性ではヒップラインとして気にする方もいるかと思います。いわゆる「お尻」の膨隆の大部分はこの大殿筋が影響します。
大殿筋は非常に大きい筋肉で上部線維は股関節より上方にあり、下部線維は股関節より下方にあります。そのため、上部線維は股関節外転の作用を有し、下部線維は股関節内転の作用を有するのです(右図)。
大殿筋は股関節伸展に強力な力を発揮します。立位から体幹を前傾すると遠心性に収縮し前傾した体幹を戻す時に求心性に作用します。 静止した立位では上半身の荷重が股関節を伸展させるように作用するため、ほとんど活動はありません。
生活の場では階段を昇る時や体幹前傾位でのしゃがみ込み等で大きな活動がみられます。
 
『ハムストリングス』
 
ハムストリングス

ハムストリングスは股関節と膝関節に作用する2関節筋です。外側に位置する大腿二頭筋と内側に位置する半膜様筋、半腱様筋によって構成されています。
 
2.大腿二頭筋 重要度○
起始:長頭 坐骨結節後面
   短頭 大腿骨粗線の外側唇
停止:腓骨頭
作用:股関節の伸展、外旋 膝関節の屈曲、外旋
 
3.半膜様筋 重要度○
起始:坐骨結節
停止:脛骨の内側顆 膝窩筋の筋膜
作用:股関節の伸展、内旋 膝関節の屈曲、内旋
 
4.半腱様筋 重要度○
起始:坐骨結節の内側面
停止:脛骨粗面の内側方
作用:股関節の伸展、内旋 膝関節の屈曲、内旋
 
このハムストリングスは全てが坐骨結節から始まっています。そのため、この筋肉の硬化が起こると骨盤を後方へ倒す力が発生して、立位から前かがみの姿勢になる時に股関節の屈曲が起こりにくくなります。
ハムストリングスは股関節と膝関節にまたがる距離が長い筋肉です。そのため、股関節付近では股関節の伸展として作用して、膝関節付近では膝の屈曲または膝の伸展をブレーキするように作用します。
また、椅子座位の姿勢で坐骨結節から大腿後面の筋肉が圧迫されて血流障害をきたすことがあります。
 
【股関節外転筋群】
 
股関節外転に関わるのは中殿筋と小殿筋、大腿筋膜張筋です。
 
1.中殿筋 重要度○
起始:腸骨の外側面で前殿筋線と後殿筋線の間
停止:大転子の上面、前面、外側面
作用:股関節の外転、内旋、外旋、屈曲、伸展
 
2.小殿筋 重要度◎
起始:腸骨の外側面で前殿筋線と下殿筋線の間
停止:大転子の前面
作用: 股関節の外旋、内旋
小殿筋
  
中殿筋

 
 中殿筋と小殿筋はほとんど同じ走行で中殿筋が表層にあり、小殿筋が深層にあります。腸骨外側面の前後幅広い部分に筋肉が付着しているため、股関節の屈曲や伸展にも作用しますが、「外転」と「骨盤の安定化」が主要な機能です。
自転車のサドルをまたぐ動作では股関節外転しますが、生活上では歩行やランニングでよく使われます。2足歩行やランニングでは必ず片側の脚で体重を支持する時間帯があります。この時に骨盤が傾かないよう調節します。そして歩行は左右の体重移動を行います。右足で支持していたなら、この中殿筋と小殿筋の活動によって反対側へ体重移動を促します。
小殿筋は中殿筋と骨盤に挟まれたような位置にあり、中殿筋からの圧迫で血流障害が起こりやすい筋肉です。
 
 
【股関節内転筋群】
 
股関節の内転筋は恥骨筋、長内転筋、短内転筋、大内転筋です。
恥骨筋ー長内転筋
 
1.恥骨筋  重要度◎
起始:恥骨上枝の恥骨櫛
停止:大腿骨の恥骨筋線
作用:股関節の内転、屈曲、内旋
 
恥骨筋は内転筋群の中で一番短い筋肉です。しかし、スパズムを起すと鼠径部の痛みを生じることがあります。筋電図による研究から恥骨筋は他の筋と協同して股関節の内旋に関与しているといわれています。
 
2.長内転筋 重要度○
起始:恥骨結節、恥骨稜の下部
停止:大腿骨粗線内側唇の中央1/3
作用:股関節の内転、屈曲
 
長内転筋は股関節屈曲60°で大腿骨長軸と一致し、屈曲にも伸展にも関与しません。60°以上の角度で伸展作用があり、60°以下の角度で伸展作用があります。
短内転筋
 
3.短内転筋 重要度○
起始:恥骨体の前方で長内転筋の後方
停止:大腿骨の恥骨筋線の遠位1/2と粗線内側唇の近位1/3
作用:股関節の内転、屈曲
 
短内転筋はどの角度でも股関節内転作用を有しています。歩行では足尖離地期に最も活動することから股関節伸展位では屈曲作用を有することがわかります。
 

大内転筋

4.大内転筋 重要度○
起始:恥骨下枝、坐骨枝、坐骨結節
停止:恥骨筋線および粗線内側唇の全長
作用:股関節の内転、屈曲、伸展
 
大内転筋は文字通り他の内転筋より大きく、その大きさは大腿二頭筋と同じくらいといわれています。
内側ハムストリングスと同じような走行をしていることから股関節伸展筋としても作用します。
【外旋筋群】
 
6つある外旋筋群は、梨状筋、内閉鎖筋、上双子筋、下双子筋、大腿方形筋、外閉鎖筋です。これらの筋肉はいずれも深層に位置しています。表層は大殿筋が走行しており大殿筋が弛緩している時は触れる時もあります。そして水平面に走行しているため、外旋トルクの産生に適しています。
 
短外旋筋群

1.梨状筋 重要度◎
起始:仙骨前面
停止:大転子
作用:股関節の外旋、外転
 
梨状筋は、中殿筋(腱)、小殿筋(腱)と連結しています。
梨状筋は外旋の働きが強く、補助的に外転作用があります。
通常、坐骨神経は梨状筋の下から表層に出てきます。しかし坐骨神経が梨状筋を貫いている場合や梨状筋を挟むように走行している場合もあります。この梨状筋が坐骨神経を絞扼する障害を「梨状筋症候群」と呼びます。
 
2.内閉鎖筋 重要度○
起始:閉鎖膜とその周り
停止:大腿骨の転子窩
作用:股関節の外旋
 
内閉鎖筋は、外閉鎖筋、上双子筋、下双子筋と連結しています。
起始である閉鎖膜を出て小坐骨切痕という凸部分を通りピークを越えて130°向きを変えて大転子の前方へ向かいます。大腿骨側が固定されていれば骨盤が回旋します。例えば、立位で右の内閉鎖筋が収縮した時は骨盤が左へ回旋します。
 
3.上双子筋 重要度○
起始:坐骨棘
停止:内閉鎖筋の腱、大腿骨の転子窩
作用:股関節の外旋
 
4.下双子筋 重要度○
起始:坐骨結節の上部
停止:内閉鎖筋腱、大腿骨の転子窩
作用:股関節の外旋
 
上・下双子筋は内閉鎖筋と連結しています。
股関節伸展位で外旋モーメントが発生しますが屈曲位ではほとんど活動がありません。
 
5.大腿方形筋 重要度○
起始:坐骨結節外面前部
停止:大転子
作用:股関節の外旋、内転
 
大腿方形筋は外閉鎖筋、外側広筋と連結しています。
短回旋筋群のなかで最も外側に位置しています。
筋電図では、股関節外旋とともに伸展、外転で高い筋活動がみられます。筋が有するモーメントとは逆の運動方向で高い筋活動を生じることは、主動作筋と共に同時収縮することで関節の安定化に貢献していると考えられています。
 
6.外閉鎖筋 重要度◎
起始:閉鎖膜とその周り
停止:転子窩
作用:股関節の外旋、内転
 
外閉鎖筋は、内閉鎖筋、大腿方形筋と連結しています。
解剖学的に外閉鎖筋は他の短外旋筋群とまとめるより内転筋群と関連性があります。