基本情報
頭痛とは頭の深部痛または放散痛を意味します。三叉神経の分布領域である前頭部の痛み、あるいは後頚部の筋肉の緊張による後頭神経に由来する後頭部・側頭部の痛みも含まれます。
そして頭痛は、一次性頭痛と二次性頭痛に分けられ、一次性頭痛は脳の機能障害によって生じると考えられており、片頭痛、群発頭痛、緊張型頭痛などがあります。二次性頭痛はくも膜下出血や髄膜炎など器質的疾患が原因で生じる頭痛です。その割合は90%が一次性頭痛で10%が二次性頭痛といわれています。
鍼灸は一次性頭痛と相性が良く効果を期待できるものが多いですが、二次性頭痛が疑われる方は近隣の病院を紹介しますので先に受診をして下さい。具体的には①頭痛以外に全身症状を有する、②突然激しい頭痛がある、③頭痛の頻度や間隔、痛みの種類が変化する、この3つのどれかが当てはまるようなら、先に病院を受診してください。
片頭痛
片頭痛は頭蓋外血管の拡張に基づく発作性の頭痛です。症状は片側性が多く(2/3)、両側性、左右交換性などもありますが、多くは片側に症状を訴えます。片頭痛の有病率は8.4%で女性で12.9%、男性で3.6%で女性が男性の3.6倍です。また男性では20歳代に多く、女性で30歳代に多発します。本症は遺伝的な要因が多く、親族に半数以上の病歴があります。誘因として気象、光線、音などの作用、寝不足、過労、低血糖などが影響します。痛みは前駆期、極期、回復期に分けられ、極期は拍動性のズキンズキンとする頭痛が特徴的です。片頭痛患者の性格は真面目で几帳面であり、意欲、自尊心の高い傾向にあります。
前兆のない片頭痛は片頭痛全体の80%を占め、前駆症状はほとんどなく、あっても倦怠感、いらつき、不眠などが現れる程度です。しかし発作の発言する頻度は高く日常生活に支障をきたすことも多くあります。頭痛は持続性で数時間から2,3日に及ぶこともあります。発作は夜間就寝中、早朝に多く発症します。
前兆のない片頭痛の診断基準
- A. B~Dを満たす頭痛発作が5回以上ある
- B. 頭痛の持続時間は4~72時間(未治療もしくは治療が無効の場合)
- C. 頭痛は次のうち少なくとも2項目を満たす
1.片側性
2.拍動性
3.中等度~重度の痛み
4.日常的な動作(歩行や階段昇降などの)により頭痛が増悪する、あるいは頭痛のため
に日常的な動作を避ける - D. 頭痛発作中に少なくとも以下の1項目を満たす
1.悪心または嘔吐(あるいはその両方)
1.光過敏および音過敏 - E. その他の疾患によらない
緊張型頭痛
緊張型頭痛は、頭蓋筋や後頭下筋の過緊張によるものを指していました。その機序は筋肉が持続的に収縮することによって虚血状態に陥り、ブラジキニン、セロトニン、カリウムイオンなどの発痛物質が蓄積された結果だと考えられています。筋の持続的収縮はストレスの多い生活条件や眼・鼻疾患、頚椎の疾患、あるいは身体的、精神的な過緊張によっても起こります。緊張しやすい性格、デスクワークやスマートフォンをよく使う人、咬合不全による咬筋の過緊張によっても頭痛となります。
緊張型頭痛は慢性頭痛の70%を占めるとされています。その大半は両側性で、後頭部、頭頂部、側頭部が多いです。その性質は鈍い痛みで持続性があり、圧迫感、しめつけ感、頭重感を訴えることが多いです。頻度は毎日頭痛を訴える方から数カ月に1回程度の方までバリエーションがあります。ベースに首肩こりを生じている方が多く、過労の後やストレスが多い仕事や生活環境の場合に発症することが多いようです。
緊張型頭痛は鍼灸で著効することが多く2,3回の施術で改善している方が多いです。
頻発反復性緊張型頭痛の診断基準
- A. 3カ月以上にわたり、平均して1カ月に1日以上、15日未満(年間12日以上180日未満)
の頻度で発現する頭痛が10回以上あり、かつB~Dを満たす - B. 頭痛は30分間~7日間持続する
- C. 頭痛は以下の特徴の少なくとも2項目を満たす
1.両側性
2.性状は圧迫感またはしめつけ感(非拍動性)
3.強さは軽度~中等度
4.歩行や階段の昇降のような日常的な動作により増悪しない - D. 以下の両方を満たす
1.悪心や嘔吐はない(食欲不振はある)
2.光過敏や音過敏はあってもどちらか一方のみ - E. その他の疾患によらない
慢性緊張型頭痛の診断基準
3カ月以上にわたり、平均して1カ月に1日以上、15日未満(年間12日以上180日未満)の頻度で発現する頭痛が10回以上あり、かつB~Dを満たす。
- A. 頭痛は数時間持続するか、あるいは絶え間なく続くこともある
- B. 頭痛は以下の特徴の少なくとも2項目を満たす
1.両側性
2.性状は圧迫感または締め付け感(非拍動性)
3.強さは軽度~中等度
4.歩行や階段の昇降のような日常的な動作により増悪しない - C. 以下の両方を満たす
1.悪心や嘔吐はない(食欲不振はある)
2.光過敏や音過敏はあってもどちらか一方のみ - D. その他の疾患によらない
群発頭痛
ある時期に集中して目の奥がえぐられるような激しい痛みを訴えます。発作は1~2カ月間に集中しほぼ毎日起こるとされています。有病率は人口10万人あたり男性で15.6人、女性で4.0人であり全体で9.8人という報告があります。片頭痛と異なり男性に多くみられます。その機序は文献ではまだ確定しておらず、内頚動脈や海綿静脈洞に原因があるのではといった説や三叉神経と副交感神経の関連に問題があるのではという説などがあります。
鍼灸では後頸部と頭部の状態を評価して刺鍼を行います。
治療方針
鍼灸で上記のような頭痛は効果的です。頭痛も慢性で重症の方は頭重感や何ともいえない不快感を伴うことが多いようです。鎮痛剤を服用しすぎて腎機能が低下してしまった方もいました。「目の奥が痛い」という訴えでも、実際は首の後ろ側(後頚部)のコリを緩めることで症状が軽快します。痛みの部位の認識にずれが生じることも踏まえて治療プランを立てることが大切です。
A)後頭部が痛い場合
後頭部には大後頭神経と小後頭神経が分布しています。大後頭神経は第2頸神経の後枝で深項筋に筋枝を与えたのち頭板状筋、僧帽筋の腱を貫いて皮下に現れ、後頭部皮膚の知覚を司ります。小後頭神経はC2の前枝から出て胸鎖乳突筋縁を上行します。耳の後方と後頭部外側の知覚を司ります。これらの神経を緩めるためのポイントが大・小後頭直筋と頭板状筋です。ツボでいうと天柱、風池、完骨という場所のやや上方です。刺鍼では頭蓋骨と頸骨の境目からやや尾方へ傾けて頚椎に当たるまで鍼を入れます。こうすることで確実に頸部深層筋に刺鍼できます。
B)側頭部が痛い場合
側頭部には側頭筋という筋肉があり、その奥には耳介側頭神経が走行しています。耳介側頭神経は耳下腺の深部から頭皮に向かい、耳の前方に現れます。刺鍼は側頭筋の後縁である耳の上から50mm~60mmの鍼を目尻の方へ鍼を入れ、その2cm上、その2cm上から前方へ向けて計3本鍼を入れます。
C)前頭部が痛い場合
前頭筋は額に付着する筋肉ですが、眼窩から出る神経を絞扼して頭痛を引き起こします。髪の生え際から額の方へ鍼を入れていきます。