基礎情報
めまいとは自己または周囲が回転または浮動を自覚する平衡失調(バランス障害)をいいます。
この症状は高齢者だけでなく、例えばメニエール病のように比較的若い年齢層に好発する疾患も増えています。
耳鼻科へ通院していても改善しないケースが多くあるようです。
めまいと鍼灸はとても相性が良く、奏効する可能性は高いです。
下記の1~3が定義となります。
- 自分あるいは周囲が実際には動いていないのに動いているように感じる異常感覚
- 体の回転感、動揺感、昇降感、傾斜感などで表現される
- 回転性めまい、非回転性めまい(めまい感も含む)に分けられる
めまいの症状
回転性めまいは景色や自分自身が回転するように感じ、特に目を閉じると自体が回るように感じます。回転性めまいがあっても予後が悪いとは限りません
浮動性めまいはフラフラとかグラグラといわれれるように、動揺感、転倒感として訴えます。時に「立ちくらみ」や「失神」に至ることもあります。
この回転性めまいと浮動性めまいは多くの場合、いつも訴える症状ではなく、ある時期に回転性めまいが現れたり、浮動性めまいになったり、初めは回転性めまいだったものが浮動性めまいになったりします。
耳の解剖
めまいの原因には耳が関わっていることが多く、耳の構造を理解しておくことは大切なことです。
a)概要
耳の奥の内耳というエリアに体のバランスを感知するセンサーがあります。めまいに関係する平衡機能には耳の病気が関わっていることもあり、耳の構造を理解しておくことは大切です。
医学的には耳を外耳・中耳・内耳という3つの部位に分類して考えるようにしています。外耳・中耳は音を振動として捉え、それを伝える働きをしているので、伝音系と呼ばれています。これに対して内耳は振動を脳に届けるための信号に変換する働きがあり、それを脳へと伝え音として感知し、大脳の様々な部位と協力して認識するので感音系と呼ばれています。
b)外耳
外耳道は音波を中耳に伝える部分で、音を集めやすいようラッパのような形をしています。この形態のため音を増幅させる効果があります。音は鼓膜を振動させ、鼓膜の振動が中耳に伝わることになります。
耳介は皮膚と軟骨からできており外耳道の外側1/3は軟骨組織で、内側の2/3は通常の骨で作られています。外耳道軟骨部を覆う皮膚には耳毛や汗腺の一種である耳垢腺があり、異物が入るのを防いでいます。耳鼻科医は耳掃除で綿棒などで耳の奥をかき取ることを推奨していない理由が分かると思います。
c)中耳
鼓膜の奥には鼓室があり、鼓膜には3つの耳小骨「ツチ骨」「キヌタ骨」「アブミ骨」が連結しています。鼓膜に音波が当たると鼓膜が振動して鼓膜に付着している耳小骨を経由して内耳に音が伝わります。耳小骨はてこの原理により鼓膜の振動を3倍にして内耳に伝える増幅器の働きを有しています。
内耳は空洞になっていて、内腔は粘膜で覆われています。内耳の機能としてまず、換気機能が挙げられます。空気圧が適正でないと鼓膜が適切に振動することができません。飛行機に乗った時に耳の痛みとともに聞こえにくくなるのはこの影響です。次に排泄機能です。粘膜は粘液を分泌し、これを再吸収しています。この時、細菌から出た毒素なども吸収しています。
さらに中耳腔は耳管で上咽頭とつながっています。耳管は短時間かつ持続的な働きを行って、中耳と外気との圧力を同等に保つよう働きます。
d)内耳
内耳は聴覚を担当する蝸牛と平衡感覚(バランス)を司る前庭(卵形嚢・球形嚢・三半規管)からできています。
蝸牛は「かたつむり」のような形をしています。蝸牛にはリンパ液が入っており、耳小骨の振動でリンパ液が揺れ、その揺れを有毛細胞がとらえて電気信号に変え蝸牛神経に伝えています。有毛細胞は蝸牛の内側に並んでおり、その場所によって感知する音の高さが異なっています。感知した音は神経により大脳皮質の聴覚野へ伝わり、音として認識されます。
次にバランス感覚についてです。卵形嚢・球形嚢は耳石系と呼ばれ、直線方向の動き・重力・遠心力を感知しています。三半規管は回転運動を感知する役割を持っています。すなわち平衡感覚のセンサーです。この部分が敏感だと、ちょっとした頭位の変化を大げさに感じてしまい、回転するようなめまいを引き起こすことになるのです。逆に鈍感だと頭位の変化をとらえにくくなり「ふらつき」を生じさせます。
検査
①ロンベルグ検査
両足の内縁を接して起立し、開眼と閉眼を30秒以上続け、頭と身体の動揺する程度と角度を調べます。閉眼時の動揺が増強するものを陽性とします。
②マン検査
直線上に一方の足底を縦に踏み、他方の足はその前に縦に並べて踏み、閉眼で起立します。30秒以内に転倒するものを陽性とします。
これらの検査は患者が倒れても支えられる用意をして行います。陽性だった場合は末梢性のめまいであることが多いです。
鍼灸の適応疾患
a)良性再発性めまい症
回転性めまいの多くはこの疾患です。片頭痛の既往がある、寝不足、疲労、ストレス、アルコールで起こる回転性めまいは突発性であり、浮動性めまいになることもあります。発作は1分の時もあれば24時間続くこともあります。そして頭を急に動かすと「めまい」を生じます。発作は時に毎日起こり、数日~数週間起こらない時もあります。
b)良性発作性頭位めまい症
頭を動かしたときのみに回転性めまいを起こし、頭を動かさないと起きません。持続は30秒から30分続くこともあります。2,3度頭の位置を変えるとめまいは弱くなります。
c)メニエール病
めまいは特別誘因なく発症し、気分が悪くなったり吐き気を伴うこともあります。耳鳴り、難聴、耳の閉そく感、眼振を伴うこともあります。その発作は1~2時間で終わり、何日も続きません。30~60才代に多く発症します。
d)外傷性頚症候群
頚椎捻転による浮動性めまいで、頭痛、頭重、耳鳴り、難聴などを伴います。
e)血圧以上によるめまい
高血圧、起立性低血圧などによる脳血流障害によるもので、浮動性めまい、失神、時に回転性めまいになることもあります。
f)屈折異常
近視、乱視、遠視などで、めまいを訴えるものがあります。
g)心因性めまい
不安神経症、自律神経障害で浮動感、動揺感、転倒感を訴える例があります。
治療法
三半規管などの内耳は椎骨動脈により栄養されていますが肩や首の筋緊張により血流が悪くなると栄養不足になり、めまいが起こりやすくなります。臨床では肩こりや首こりを伴っているような方が多いです。共通治療は「天柱」「風池」「完骨」がポイントとなります。
a)めまいが主症状のタイプ
めまいは回転性、浮動性、両方混在している場合と「めまい」が主症状となる場合です。このタイプの場合、中斜角筋や後斜角筋も重点的な施術が必要です。
b)耳鳴り、難聴を併発しているタイプ
めまいは浮動性が多く、耳鳴りや難聴を併発しているタイプです。また、気分が悪い、吐き気がする等、消化器の問題も生じているため背中にある脾兪、胃兪付近の圧痛所見がないか確認します。圧痛があるようなら施術します。また耳に関係する翳風や耳門といった部位も重要ポイントとなります。