基礎情報
腰痛のタイプは種々ありますが、症状経過の観点からいうと急性に発症する急性腰痛と、慢性に発症する慢性疼痛に分けられます。急性腰痛は「重い物を持ち上げた時」や「ちょっと腰をひねった時」などささいな動作がきっかけに起こることが多くあります。痛みの強さは様々ですが、身動きがとれなくなる激症型も少なくありません。こうした腰痛を一般的には「ぎっくり腰」といいます。
急性腰痛を起こした患者さんの経過を調べた研究では1年ほどの期間で60~70%の人が再発を経験するという報告があります。
こうした腰痛は筋肉、筋膜、椎間関節、椎間板、靭帯など組織的な原因だけでなく内臓疾患が原因となることもあります。重篤な問題が無ければ、医療機関では安静を指示されることが多いですが、筋肉や筋膜の問題で起こるケースが多く鍼灸治療は即効性が期待できます。
症状
以下のような状況で起こることが多いです。
前かがみになったり腰をひねった時に痛くなった
床の物を持ち上げようとしたら痛くなった
上の物を取ろうとしたらギクッと痛くなった
他疾患との鑑別
急性腰痛を起こす主な病気は以下の疾患が挙げられます。
背骨の病気 | 腰椎の骨折、打撲 腰椎椎間板ヘルニア 化膿性脊椎炎 転移性脊椎腫瘍(がんの骨転移) |
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消化器の病気 | 胃・十二指腸潰瘍穿孔 急性膵炎 |
泌尿器科の病気 | 尿路結石 腎盂腎炎 |
婦人科の病気 | 子宮内膜症 子宮外妊娠 |
腰椎の骨折や打撲は転倒したり尻餅をついたりしなかったか、を確認することで除外できます。
椎間板ヘルニアは下肢の神経症状や筋力低下を認めるか否かで判断します。
化膿性脊椎炎は腰痛と共に発熱や吐き気、倦怠感が伴いますので、全身状態を確認します。
胃・十二指腸潰瘍穿孔は腹痛や下血(黒色便~タール便)の所見が伴うか確認します。
急性膵炎は、アルコール摂取量が多くないか、腹痛を伴うかを確認します。
尿路結石は立った状態で腰部を細かく圧迫すると結石の移動に伴い痛みが生じます。
腎盂腎炎は発熱、吐き気、だるさなど全身状態を確認します。
子宮内膜症は普段、月経痛が強い、月経量が多いか確認します。
子宮外妊娠は下腹部痛や不正性器出血がないか確認します。
まず、患者さん自身で以下のような症状があった場合、すぐに医療機関を受診してください。
- 楽になる姿勢がない
- 鎮痛薬を飲んでも変化がない
- 発熱、腹痛を伴う
- 食事もとれない
- 冷や汗がでる
診断と検査
問診では、思い当たるきっかけとなるような状況があったか、腰痛以外の症状が無いか確認します。
医療機関では通常レントゲン検査が行われます。疑わしい病気がある場合はMRI検査や血液検査を行うケースもあります。
当院ではまず、どの程度動けるのかを評価します。例えばトイレに行くのも這っていかないと移動できない人と歩けるが腰を曲げていないと痛くて仕方がない人では状況がまったく異なります。ある程度動ける人は当院に来院していただき、自宅内移動も困難な人の場合は往診を検討します。
次に「大腰筋」や「脊柱起立筋」「腰方形筋」などに圧痛があるか確認します。まれに「腸骨筋」というケースもあります。
ある程度体が動かせるのであれば、体前屈、後屈、側屈などの動きをみて、原因筋を特定していきます。
メカニズム
立ち続けたり、座り続けるといった同じ姿勢を長く続けたり、疲労の蓄積、過酷な労働などが原因で徐々に大腰筋や腸骨筋、脊柱起立筋などが慢性的に緊張状態となり、ちょっとした動作(中腰で物を取るなど)が起点で腰部に激痛が走ります。臨床では病歴を聞いてみても、損傷の起点がはっきりしない時もあります。強い痛みが生じたのが急であっても、それ以前から筋肉の柔軟性低下や筋力低下などがあり、腰痛を繰り返していることも多いです。発症起点の話を聞くだけでなく、どの部位が痛いのか、また触診して圧痛部位がないのか、上体を曲げたり伸ばして痛みがあるのかなどの所見を総合して損傷している可能性が高い組織を特定していきます。
組織的には、筋肉や筋膜と神経が癒着を引き起こし痛みが生じます。例えば大腰筋は腰から脚へ向かう多くの神経が隣接したり筋内を通過したりしているため、大腰筋の痙攣や緊張により大腰筋と神経の癒着が起こりやすく、癒着が起こると状態を伸ばすと神経が引張られる格好となり、痛みが生じます。前かがみ姿勢で上体が起こせないケースは大腰筋が問題になるケースがほとんどです。
一般的な治療法
医療機関では特に原因となる病気が無かった場合、以下のような治療法となります。
薬物療法
主に非ステロイド性抗炎症薬が用いられます。痛み止めとして飲み薬や坐薬、貼り薬が処方されます。ぎっくり腰のような強い痛みの時は坐薬が効果的なケースが多くあります。飲み薬は副作用で胃腸障害が出やすいため、食後に服用します。坐薬が苦手という方は飲み薬を服用します。筋肉の緊張が強い場合は筋弛緩薬を処方されることがあります。
一般的に、病院を受診すると、上記の薬物療法と安静を指示されます。
当院における治療法
「ぎっくり腰は安静にしておけば治る」といわれてもそうはいかない人も多いと思います。まず、鍼灸が適応であることを確認し、施術を行います。ぎっくり腰は大腰筋の痙攣で起こるといわれており、あお向け、あるいは横向きに寝ていただき臍の斜め下方を圧迫します。すると腸を介して大腰筋の緊張状態が分かります。問題があると圧痛があります。
初めてのぎっくり腰なら鍼を入れても痛くなく、むしろ心地よい感覚です。痩せた女性なら60~75mm、男性では90~100mmを直刺と斜刺して35分留置します。