1.股関節の運動方向
股関節は多軸関節で球関節であるため、様々な方向へ動かすことができます。
股関節の運動方向は屈曲、伸展、外転、内転、外旋、内旋の6方向です。
屈曲、伸展
屈曲は腿を前方向へ曲げる動作です。伸展は反対に腿を後方に曲げる動作です(下図参照)。
正常の関節可動域は屈曲が125°で伸展が15°です。
外転、内転
外転は脚を外側へ開く動作で、内転は内側に閉じる動作です(下図参照)。
正常の関節可動域は外転が45°で内転は20°です。
外旋、内旋
外旋は股関節を90°曲げ、膝も90°曲げた状態から足部を内側へ動かす動作です(下図参照)。足が内側へ動くから「内旋」じゃないか、という意見があるかもしれませんが、これはアイスクリームのような形をした大腿骨頭が外へ動くので「外旋」なのです。
反対に内旋は股関節90°屈曲位、膝90°屈曲位で足部が外へ動く動作をいいます。
正常可動域は外旋、内旋とも45°です。
2.オープンキネティックチェイン(OKC)とクローズドキネティックチェイン(CKC)
一般的にオープンキネティックチェインというのは非荷重位での運動を指し、クローズドキネティックチェインは荷重位での運動を指します。
股関節外転とは脚を外側方へ動かす運動と説明しましたが、立位でこの動作を行うと足が床から離れますのでOKCとなります。具体的にいうと骨盤に対して大腿骨が外転するということです(右図左側)。
一方、立位で上半身を右側に傾けたとしましょう。この時は荷重がかかったままで大腿骨を基準に骨盤が右側へ傾いています(右図右側)。これがCKCの運動です。この動作も股関節では「外転」という動作です。
私たちの日常では立ったまま胴体を曲げたりひねったり、歩いたり、立ったり座ったりと、クローズドキネティックチェインの動作がたくさんあります。オープンキネティックチェインでの運動では単一の関節運動ですが、クローズドキネティックチェインは複数の関節運動が連動して動くため、リハビリテーションでは連動した運動(CKC)の訓練が積極的に取り入れられています。
3.立ち上がりでの座面の高さによる違い
椅子から立ち上がる時に手で座面を押したり、ももに手を当てないと立てなくなったという方もいっらっしゃるのではないでしょうか。
「力がなくなったから」という意見もあるかと思います。股関節に障害があると大抵の場合、関節の可動域が悪くなったり、痛みのために筋出力が上手く発揮できなくなります。
そんな時は、簡単な重心移動の法則を思い出してください。右図は座面の高さによる重心の移動距離の変化を表した図です。左からAは股関節が65°屈曲位、Bが90°屈曲位、Cが100°屈曲位です。どれが一番重心位置の移動変化量が少ないでしょうか。
答えはAですね。例えばソファーなどはBかCが多いのではないでしょうか。これでは重たい体をたくさん移動させなければなりません。
このように運動学的に考えると、座面の高さによって”立ち上がりやすさ”は大きく変わってくるということです。
4.身体各部位の重量割合
ヒトの身体で一番重たいのは体幹で全体重の約48%を占めています。さらに両上肢と頭頚部を合わせた上半身は65.5%を占めます。これは体重の2/3にあたり体重が60kgだとすると上半身は40kgになります。股関節は左右両側ありますので、片側につき体重30kg以上の荷重がかかっていることになります(下図左)。
では片足立ちにはどのくらいの負荷がかかっていると思いますか。実は2.5倍もかかっているのです。
例えば右足で片足立ちになると上半身の重さに加えて左脚の重さも加わります。股関節からすると左側に通過する荷重量が増えたため、これにつりあうように筋力を使って逆方向の力を発生させないといけません。この筋力は股関節を圧迫するような力を発生させます。この体重と筋力の力のバランスの支点が股関節になるため、大きな負荷がかかります(下図右)。
5.関節応力
関節応力とは関節面の局所に作用する力のことで、単位面積当たりの力として捉えることができます。関節応力を決定する因子としては、股関節の形態、関節合力や関節周囲筋の収縮力、関節包や靭帯などの非収縮要素、さらには関節内圧が考えられます。
正常な股関節における骨頭の荷重面は広範囲ですが、臼蓋形成不全の股関節においては荷重面が狭くなります。Pauwelsはこれをハイヒールの踵の断面積に例え、単位面積当たりの荷重の重要性について説明しています(下図参照)。
6.各動作における股関節の負荷
動作や姿勢により股関節の荷重がどのように変わるか見ていきましょう。
- 腰かけ座位:30% BW
- 立位:80~100% BW
- 歩行:300% BW
- 片側杖歩行:180% BW
- 階段上り:350% BW
- 階段下り :400% BW
- ジョギング:400% BW
- 椅子からの立ち上がり:200~300% BW
歩行では体重の3倍ありますが、杖を使うと1.8倍まで低下することが分かります。腰かけ座位では体重の30%ですので、座位で股関節の調子が悪い時は関節負荷以外の問題である可能性が高いと考えることができます。