基本情報
冷え性は身体の末端部が冷たく感じ、そのために不眠などの不快な症状を訴えるもので冬季に多くみられます。従来、冷え性は更年期女性が主だといわれてきましたが、現在は若い女性にも多く見られます。男女比は女性に多いといわれています。「手足が冷える」という訴えだけで医療機関に行っても、病名がつかなければ対応は難しいようです。鍼灸では著効するケースが多くみられます。
原因
まず、人体の生理的な原理を考えましょう。身体の組織に栄養分や熱を運ぶのは紛れもなく「血液」です。血液(動脈血)は川の流れに例えられます。腕を例に挙げると心臓から出たばかりが「上流」肩から肘までが「中流」肘から指先までが「下流」とします。上流の噴出量が少ない、上の部分で土砂崩れが起きて流れが止められた、なんて場合はその部分の流れが少なくなります。
動脈の流れは上肢は肩→上腕→前腕→手→手指の順で、下肢は大腿→下腿→足→足指の順です。
どの部分から冷えるか、話をきいたり触って確かめます。例えば手の手首から先が冷えるということでしたら、肩、上腕、前腕部分の筋肉で血流障害があるのではと考えられるのです。下肢も同様に考えます。
冷え性のタイプは3つに分けられます。
①下半身が冷える
②四肢末端が冷える
③内臓が冷える
多くの場合は①か②で、これらのケースは筋肉による血流障害、または自律神経系の問題で冷えてしまいます。「冷え性の生理的メカニズムについて」という論文での実験では冷え性群と非冷え性群に分けて15分間横になった時の心拍数、血圧などを測定した結果、冷え性群は心拍数が優位に高い結果でした。安静時に脈拍が高いというのは交感神経優位であることを示唆します。交感神経は血管を収縮する作用があるため、血流障害が起こりやすいのです。
③のケースは元々虚弱体質であったり、ちょっとしたストレスで胃腸の具合を悪くする「過敏性腸症候群」の方で下痢が多い方で冷えてしまうことがあります。このようなケースでは背骨の傍にある脊柱起立筋の硬化が原因になるケースが多いです。
子宮冷え(宮寒)について
中国には「宮寒」という言葉があります。これについて説明します。
宮寒の主な症状は手足の冷え、織物が水っぽい、多い、体重増加、月経異常です。これらのよくある症状以外に一部の患者には月経痛があり、強い月経痛だと胎児の発育に影響を与える可能性があります。したがって、不妊や発育不良の症状を呈する場合があるのです。
宮寒はいわゆる“子宮が冷えること”です(以下宮寒を子宮冷えと表記)。これは女性ではよくみられます。その大半は飲食不摂生や生活習慣が良くないことで引き起こされます。もう一方は女性が生まれつき冷え体質で、これもまた子宮冷えのよくある原因のひとつです。もし保養するのであれば、以下に挙げる症状がはっきりしている事と、これら子宮冷えの症状がいくつあるか確認しましょう。
①手足の冷え
手足の冷えは子宮冷えの最もよく見られる症状のひとつです。この状況は冬季、特にはっきり現れます。仮に部屋の中に暖房設備が無ければ、夜寝る時に足は一晩中冷えたままになるでしょう。手もまた同様です。このような人は身体全体が冷えた感じを受けます。
②織物が少ない、多い
女性の織物はすなわち月経分泌液です。その状態で身体の健康状態を把握することができます。もし子宮冷えのような状況があったら、織物の産生異常が起こり、通常織物は水っぽく量は多くなります。
③体重増加
子宮冷えの患者は太ることがあります。かつ気力、体力低下を伴うこともあり、不眠や夢を多く見るなどの症状があります。子宮の熱量が不足すると自身の生理機能を維持するため、身体は断続的に脂肪をため込みます。子宮冷えの状況は更に悪化して、ため込んだ脂肪は増え続け、最終的に体重増加を引き起こします。
④月経異常
もし女性患者で子宮冷えがあったら、月経もまた問題が発生します。主なものとして月経遅れで色は薄く量は少ない、かつ月経前に下腹がつり下がる感覚があります。また、腰や膝の鈍痛、織物の増加、および乳房の張痛を伴うこともあります。
他に毎回、月経が来る時に血塊があり、そして顔色が黒っぽくなります。これらの状況の時に改善、調整する必要があります。
⑤月経痛
月経痛は多くの女性が経験した事があり、重い時は我慢することさえ難しいです。普段の生活と仕事が出来なくなることもあるのです。また、月経痛を引き起こす原因のひとつは子宮冷えです。月経痛もまた子宮冷えで良く見られる症状です。
⑥不妊、発育不良
子宮冷えのその他の症状として、不妊と発育不良があります。子宮冷えにより子宮の温度は大幅に低下します。このことは精子と卵子の正常な受精に影響を与えます。最終的に不妊と胎児の発育不良を引き起こすのです。
評価
問診で話を詳しく聞き、どのタイプの冷え症なのか推測します。
次に自律神経系が疑われれば、脊柱起立筋、上肢の冷えであれば後頚部や前腕(肘と手首の間)筋を触診します。また、下肢の冷えであれば大腿部、下腿部の筋肉を触診します。
子宮冷えの疑いがある場合は、臍の下を触診します。
この2点を丁寧に行うことで施術部位が決定されます。
治療方針
1.自立神経失調による冷え→頚~腰の夾脊穴に刺鍼
自律神経は背骨の脇を背骨と平行に走行しています。自律神経は脊髄神経から枝分かれしており、脊髄から出た一部の神経は脊柱起立筋へ走行しています。そこでその脊柱起立筋へ刺激を与えて自律神経の機能を調整するのです。
2.下肢(膝から下)の冷え→ふくらはぎの下腿三頭筋に刺鍼
膝から下の血管の多くはふくらはぎに集中しています。ふくらはぎにある下腿三頭筋に刺鍼して血流を改善させることにより、末端まで血流を改善させます。
3.下肢(大腿部から下)の冷え→大腿部の中間広筋に刺鍼
大腿部(ふともも)から冷えがある場合は大腿部の前側にある中間広筋に刺鍼します。中間広筋に刺鍼することで大腿部の血流が改善し脚全体への血流を回復させます。
4.手の冷え→頚夾脊穴と前腕に刺鍼
手の冷えがある時は頚夾脊と前腕(肘から手首まで)に刺鍼します。
5.腹部の冷え→大腰筋or腸骨筋に刺鍼
女性の場合、骨盤腔内に子宮があり子宮冷えの可能性があります。臍下の触診で冷えがあった場合は大腰筋か腸骨筋に刺鍼します。