基礎情報
坐骨神経は、第4腰神経と第5腰神経、第1~第3仙骨神経から成る仙骨神経叢の枝として始まります。その後、梨状筋の下方で大坐骨孔を通り、殿部に入ります。その後垂直に下り、大腿屈筋群に枝を出した後、膝窩の上で脛骨神経と総腓骨神経に分かれます(図参照)。神経というのは川のように走行する場所によって名前が変わるのです。
坐骨神経は体内で最も太い神経で、膝関節を屈曲する全ての筋と、足関節と足で働く全ての筋を支配します。また、下肢の幅広い皮膚領域も支配します。
坐骨神経痛とは、坐骨神経が圧迫・刺激されることにより発生するお尻から足にかけての痛みやしびれをいいます。
具体的には、筋肉の緊張や腰椎椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄などが原因で坐骨神経が圧迫され、又は血流不良により、お尻から脚に痛みやしびれが発症します。
症状
坐骨神経痛の症状には、以下のようなものがあります。
①お尻から足にかけて痛みがある
②夜間、明け方にお尻や脚が痛む
③体を後ろに反らすと脚に痛みやしびれを感じる
④締め付けられるような痛みがある
⑤歩くとお尻や脚に痛みがでる
上記の他、腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症の影響で、脚の筋力低下、長距離の連続した歩行が困難になる等の症状で日常生活に支障をきたす場合もあります。
激しい痛みや感覚障害を伴う場合、又はスリッパが脱げてしまうなどのケースは、まず医療機関の受診を検討しましょう。MRI検査で脊柱管狭窄症や腰椎椎間板ヘルニアは確認できます。
坐骨神経痛で鍼が適応のケース
○:筋肉による神経の圧迫が原因の坐骨神経痛
△:腰椎椎間板ヘルニアによる坐骨神経痛
△:脊柱管狭窄症による坐骨神経痛
筋肉:「夜間や明け方に脚が痛む」や「入浴後に症状が緩和する」場合は鍼治療が効果的な可能性が高いです。これらは筋肉が原因となる特徴的な訴えで、大腰筋と梨状筋、腓腹筋が治療のポイントとなる筋肉です。
ヘルニア:大腰筋の施術で大腰筋の緊張が改善してきたら、バックストレッチャーの使用で潰れかけた椎間板を回復させる方向で進めます。
脊柱管狭窄症:腰が丸くなった(円背)人が多く、横向き寝で大腰筋の治療を重点的に行います。鍼を筋肉に入れても普段の痛みの再現がないことが多く、治療に時間がかかることが多いです。
坐骨神経痛で鍼が不適応なケース
①便や尿が出にくい
②つま先が上がりにくい
③感覚麻痺がある
上記のような症状がある方は医療機関で受診、検査してもらいます。
検査
ラセーグ徴候
代表的な検査はラセーグ徴候(図参照)で、これはあお向けに寝た姿勢で膝を伸ばしたまま下肢を上げて、脚の後面に放散痛が起こるものを陽性とします。陽性の場合、第4-5腰椎椎間板や第5腰椎ー仙椎椎間板レベルの椎間板ヘルニアが疑われます。下肢を伸ばして挙上するので下肢伸展挙上テストまたはSLR-testといわれる場合もあります。
ブラガード・テストは下肢挙上後に、足関節の背屈を加えます。背屈とは、足の甲を脛側に曲げることです。このテストはラセーグ徴候陽性の場合は必ず陽性となります。ラセーグ徴候が陰性でも陽性となる場合があり、確認の意味で行います。陽性で疑われる疾患はラセーグ徴候と同じです。
圧痛
当院では筋肉の硬化により坐骨神経痛が起こるという考え方ですので、重要な検査です。坐骨神経が筋肉の硬化により起こりやすい場所は限られており、次の3点がポイントとなります。
①大殿筋:あお向けで膝を立てて、臍から斜め下方5cmの部位を圧迫します。
②梨状筋:うつ伏せで大転子と仙骨間を圧迫します。
③腓腹筋:うつ伏せでふくらはぎ部分を圧迫します。
上記①~③の部位を圧迫して違和感や痛み、しびれ等の反応がある部位が問題の筋になります。
原因
坐骨神経痛で主な原因と考えられているのは以下のものがあります。
①脊柱管狭窄による神経の血流不全
②ヘルニアによる神経の圧迫
③筋肉(大腰筋、梨状筋、腓腹筋)による神経の圧迫
メカニズム(筋肉と神経を中心にして)
まず神経痛とは神経の圧迫、牽引が主な原因で発症するというのが、治療を考える大前提です。
上図(骨盤)のように坐骨神経の出発点の上端は第4,5腰椎の外側から出ています。この部位はちょうど大腰筋が走行している部位になるので大腰筋の緊張を神経が受けやすい部位といえます。
また、殿部の図からわかるように、坐骨神経は梨状筋と上双子筋の間から出ています。この部位は梨状筋と上双子筋の圧迫を受けやすい部位といえます。
このように解剖学的な根拠を基に治療プランを決めることが、根本的な治療に重要なのです。
医療機関での治療法
基本的に、坐骨神経に対する治療は保存療法(手術以外の治療法)がファーストチョイスとなります。病院では鎮痛薬(湿布も含む)の処方やブロック注射、ステロイドの注射を行うことがあります。
他にも温熱療法や電気療法、牽引といった物理療法の他に、理学療法士によるリハビリテーションを取り入れる場合もあります。
これらは根本治療というよりは、対症療法となります。
これらの保存療法で効果が不十分であった場合に、手術の検討となります。
坐骨神経痛の注意点
坐骨神経痛の症状が出ている時は、医家のような点に注意しましょう。
①急に腰を曲げたりひねらないようにする
②オーバーワークにならないよう注意する
③適度な運動を心がける
坐骨神経痛の方で症状が増悪したきっかけは、重い物を持ち上げたり、身体をひねる動作が起点になることが多いです。
発症後に、上記のような注意点が守れないと痛みが強くなるだけでなく、症状が悪化する可能性があります。
また、ハードワークにより、身体が常に緊張状態になり筋肉が凝り固まってしまい、神経を圧迫することがあります。特に痛みがを生じている場合は医師や上司と話し合いの上、業務内容、業務時間を決めましょう。
最後に、適度な運動を行うことも坐骨神経痛の症状をやわらげるには有効です。激しい痛みがある時期に無理に行う必要はありませんが、ある程度痛みが落ち着いてからは、軽負荷で運動する方が筋肉の血流改善により快方に向かう可能性が高いです。