基本情報
顎関節症は顎関節や咀嚼筋の疼痛、関節雑音、開口障害を3徴候とする慢性疾患群の包括的疾患名です。疫学調査では人口の10%に何らかの顎関節症の症状があるといわれており、顎関節症の有病率は高いことが分かります。
一般社団法人日本顎関節学会では顎関節症診断に関するガイドラインを発刊し、顎関節症の病型分類を発表しました。
この分類とは以下のようなものです。
問題点を整理すると4つに分けられます(病態分類)。
①咀嚼筋痛障害
その原因は筋緊張、筋スパズム、筋炎があげられます。咀嚼筋は側頭筋、内・外側翼突筋、咬筋のことをいいます。
②顎関節痛障害
外傷性病変を主徴候としたもので、外来性外傷(顎や頭部の打撲、気管内挿管など)や内在性外傷(硬いものを無理して咀嚼した、大きなあくび、咬み合わせ異常)などにより顎運動時の顎関節痛や顎運動障害が生じた病態です。主な病変は関節包、関節靭帯、円板付着部になります。
③顎関節円板障害
最も一般的な顎関節症の病態です。この病態は関節円板の位置、形態異常に関するものが含まれ、MRI検査で診断が行われます。
④変形性顎関節症
変形性顎関節症は下顎骨、下顎窩、関節隆起に異常をきたす病態で、退行性病変といわれています。
顎関節症の原因
顎関節症は多数の因子が積み重なって、その人の耐えられる限界を超えた時に発症するといわれています。生活の中では以下に挙げたものが原因と成りえる因子です。
1.咬み合わせ‥不良な咬み合わせ
2.外傷‥転倒、打撲、交通外傷
3.精神的要因‥不安、抑うつ
4.生活習慣‥頬杖、爪噛み、筆記用具噛み、下顎突出癖、うつ伏せ読書
5.食事‥硬固形物咀嚼、ガム噛み、片咀嚼
6.就寝時‥歯ぎしり、食いしばり、睡眠不足、不適正な枕の使用
7.コンタクトスポーツ、球技スポーツ、ウインタースポーツ
8.音楽‥楽器演奏、カラオケ、発声練習
9.日常業務‥PC作業、精密作業、重量物の運搬
これらの要因が積み重なり発症するといわれています。
筋性顎関節症
顎関節は筋肉の問題から生じる筋性顎関節症と関節の問題で生じる関節性顎関節症があり、割合でいうと筋性顎関節症の方が多いといわれています。筋性顎関節症は長時間にわたるPC作業や歯列接触癖、歯ぎしり、食いしばりなどの行為を繰り返し、咀嚼筋の緊張、攣縮により起こります。長時間の筋収縮により筋肉が虚血状態となり発痛物質が溜まる、又は自己で筋肉を緩められなくなります。
疼痛部位はこめかみや耳周囲、顎関節部にあることが多く、咀嚼筋を圧迫すると痛みを生じることがあります。また、患者に開口してもらうと、大きく開けられないが、診察者がサポートすると口を大きく開けることができることがあります。このような場合は口を閉じる筋肉が凝り固まっているため、自分の力だけでは空けられないのです。これらのケースは鍼灸治療で効果が期待できます。
顎関節運動に関わる筋肉
側頭筋、咬筋、内側翼突筋、外側翼突筋の4筋を「咀嚼筋」といいます。咀嚼筋は文字通り噛む動作に働き、下顎骨を引き上げます(挙上する)。
①側頭筋
側頭筋は側頭部の浅いくぼみである側頭窩から下顎骨の筋突起、下顎枝に停止します。主な役割は下顎骨の挙上ですが、下顎骨を後方に引く運動も行っています。運動は深側頭神経により支配されます。
②咬筋
咬筋は浅部と深部に分けられ、どちらも下顎骨の挙上のときに収縮します。浅部は頬骨弓前方2/3、深部は後方2/3からそれぞれ始まり、下顎枝外側の咬筋粗面に停止します。運動は下顎神経の枝である咬筋神経により支配されます。
③内側翼突筋
内側翼突筋は蝶形骨の翼突窩から始まり、下顎骨内側面の翼突筋粗面に停止します。下顎骨を挙上させる作用があり、深頭と浅頭に分けられます。神経支配は下顎神経の枝である内側翼突神経です。
④外側翼突筋
外側翼突筋は上下の2頭を有しています。上頭は蝶形骨大翼の側頭下稜から始まり、顎関節の関節円板に停止します。下頭は、蝶形骨翼状突起の外側板の外側面から始まり、上頭とほぼ平行に走行し、下顎頭前下方にある翼突筋窩に停止します。外側翼突筋の運動は、下顎骨を前方に引くことであり、下顎骨を挙上することはありません。神経支配は下顎神経の枝である外側翼突筋神経です。
治療方法
後頚部のコリがあれば、まずうつ伏せでの施術を行いますが、口を閉じていると内側翼突筋の施術部分が狭くなってしまうので、横向きかあお向けで口に紙コップを挟み、やや開口した状態で施術します。
側頭筋施術は耳上から太陽穴へ向けて50~60mmの鍼を透刺し、上方に1cm間隔で平行に刺入していきます。
内側翼突筋施術は翳風や頬車から下顎骨内壁に沿わせ、50mm鍼を前方に向けて刺入します。そして聴会あたりから頬骨弓の下に沿い3本ほど1~2cm直刺します。また下顎の咬筋へ斜刺します。