概説
難聴と耳鳴りは同時に発生することが多い症状であり、この2つは密接に関係しています。
1821年、ジャン・イタールは、ほとんどの耳鳴り患者は難聴を伴い、少数(9%)の聴覚障害のない耳鳴りを除いて、大部分の耳鳴り患者は難聴を伴うが、場合によっては難聴が軽度で患者が気付かず、或いは耳鳴りが重度のため、難聴からの影響に注意が向かないことがあると提唱しました。一部の学者は、耳鳴りと難聴は似たような神経学的メカニズムがあり、或いは耳鳴りは聴覚周囲系統の損傷後、聴覚中枢の可塑性変化の結果であると考えています。
耳鳴りはよく見られる臨床症状で、特に高齢者で出現する割合が高いです。Stoufferらは(1990年)、米国における耳鳴りの発生率が総人口の32%を占めていると報告しました。中国の統計資料を見ると、黄选兆らは、耳鳴りの発生率は13%~18%で、黄魏宁らは(2003年)、高齢者群(60歳以上)で耳鳴りの発生率は34%で、その中で耳鳴りが重度で医療機関を受診した人は0.4%~2.8%であったと報告しました。多くの患者が耳鳴りで深刻に悩まされており、仕事、生活、睡眠、娯楽、他者との交流に影響を及ぼし、更には精神的疾患を引き起こす可能性もあります。
今までは内耳の血流障害、感染(特にウイルス感染)、創傷、騒音、腫瘍、自己免疫疾患、中毒(特に耳毒性薬物)、感情の高ぶり、睡眠不足、加齢などが原因で耳鳴りや難聴が起こると考えられてきました。メニエール病患者は内耳の膜迷路の水腫により聴覚障害が起こることがあります。上記で述べた病因要素の中で、内耳の血流障害が最も重要であると多くの学者は考えています。
頚部の軟部組織損傷に伴う聴覚障害(以下頚原性聴覚障害)は頚椎病変による椎骨―基底動脈の血流障害、内耳動脈の血流低下により、内耳の血流障害が起こり、症候群が生まれます。その主な症状は難聴、耳鳴り、めまい、頚部の不快感などです。
純音聴力測定の結果に基づき、難聴は感覚性難聴と伝音性難聴に分けられます。頚原性聴覚障害で関係する難聴は感音性難聴です。
臨床での主訴は耳鳴り患者の中には2種類の表現があります。一つは外部音源や外部刺激がない場合で物音がある主観的感覚で、主観的耳鳴りといわれます。もう一つの耳鳴りは自身が感じるだけでなく、別の人も聞こえ、この耳鳴りは多くの場合、ぎいぎいといった音やクリック音、血管のきしむ音で、客観性耳鳴りといわれます。頚原性耳鳴りで関係するのは主観的耳鳴りです。
頚原性聴力障害は通常、針刀、鍼灸、頚椎牽引、頚肩部のあん摩、頚肩部の温熱療法など総合的な治療が必要で、これらは相互に補い合い、行われ各々特徴があります。その中で鍼灸治療は耳の治療に重きを置き、その他の治療は頚椎の治療に重きを置いています。例えば、標治と本治の観点から見ると、聴力障害が標治で頚椎症が本治となり、針刀や鍼灸などは多くの種類で行われ、頚原性聴力障害の標治と本治を両方治療するやり方です。
聴覚の解剖
耳は位置覚器官と聴覚器官から成り、両者の機能は異なりますが、構造上は密接な関係があります。
耳は外耳、中耳、内耳の3つに分けられます(図参照)。
外耳は突出した耳殻があり、音波を集め、外耳道に沿って鼓膜へ伝えます。鼓膜は薄くて柔らかい紙が張ったような組織で、大きさは小指の爪ほどです。通常、話した音波は鼓膜がとても小さな振動を出し、この種の振動は顕微鏡でも見ることが難しいのですが、音の世界の鍵となります。
中耳は鼓膜と内耳の間にある狭い鼓室で、長さは0.5寸、幅は1/4寸で、耳管と鼻咽頭が通じ、空気が充満し、室内と大気圧のバランスを保っています。室内には鎖状の3つの小骨(つち骨、きぬた骨、あぶみ骨)が鼓膜から内耳の間に連なり、この振動を伝えます。この3つの小骨は共に輪を形成し、鼓膜の振動を受けて、その音波を22倍に拡大し、「前庭窓」と呼ばれる小さな膜(あぶみ骨はこの膜に付着する)から内耳に伝わります。
内耳は岩様部内の一連の相互に通じた腔と管(骨迷路)であり、骨迷路にはより複雑な膜迷路があります。膜迷路の一部分は音波刺激を受け取る蝸牛迷路です。もう一つの部分は前庭迷路で頭の動きと重力を記録し、それに対する力の方向などから、平衡感覚と関係があります。そのため、内耳や前庭蝸牛器は、内耳神経が分布しています。
内耳の中に聴覚の中心構造である聴覚の感覚器であるコルチ器があり、蝸牛管内の基底膜上に位置して、基底膜は線維組織から構成され、その線維の配列はピアノの弦と同じようで、聴線維束といいます。人体の基底膜はおよそ24000本の弦があり、その弦の長さは蝸牛底から頂点までの間で徐々に長くなります。
コルチ器は感覚細胞、支持細胞、蓋膜により構成されます。感覚細胞は聴細胞といい、その上端に内有毛細胞と外有毛細胞があります。有毛細胞の繊毛は豊富なアクチンによる微繊毛で、比較的強い剛性があります。
人体の内有毛細胞の数は最大で約3500個、外有毛細胞は約12000個で、その神経支配は明らかに相違があります。蝸牛感覚神経線維の大部分(95%)は内有毛細胞と連絡があり、わずかな部分(5%)は外有毛細胞に分布します。外有毛細胞の蝸牛感覚神経を支配するのは内側オリーブ蝸牛束で、線維は太く大きく有髄線維があり、外有毛細胞と直接シナプスの連絡があります。また、内有毛細胞の蝸牛感覚神経を支配するのは外側オリーブ蝸牛束で、線維は比較的細く小さく、髄鞘線維は無く、内有毛細胞の感覚神経抹消とシナプスを形成します。
上述した解剖の特徴は2種類の有毛細胞が、生理機能の相違を有していることを表しています。
聴覚の生理
(1)聴覚周囲の生理
聴覚周囲の基本機能は音を神経パルスに変換し、音声情報を特定のコード形式に基づき中枢へ伝えます。
1.外耳
外耳は耳介と外耳道が含まれ、主な機能は集音作用で、音場から音波を鼓膜へ伝播し、同時に、それらの周波数の音波に対し、増強作用があり、音源の位置を特定する補助となります。
2.中耳
中耳の主な機能は外耳道内の音の振動エネルギーを蝸牛のリンパ液へ伝えることです。この伝導は増強効果があることで完成します。中耳には鼓膜、耳小骨及び付着する筋肉、耳管などの構造があり、これらの構造を通じた増強作用で鼓膜から耳小骨を経由し前庭窓に達する時、その効果は22.1倍に達するほどで、基本的に空気からリンパへの音波エネルギーの減衰を補うことが出来ます。耳管の作用はその開閉を通じて鼓膜内の圧力を調整し、外界とのバランスを保ち、中耳の伝音作用の活動を保証します。
3.蝸牛
蝸牛の聴覚機能は2つの側面に要約できます。1つは音を感じる機能で、入ってきた音を変換し蝸牛神経末端の適切な部位に刺激を伝えることです。もう1つは音情報の初期分析処理を行うことです。
蝸牛の聴覚生理プロセスは以下のように要約できます。
音刺激により蝸牛の機械的運動→有毛細胞の興奮→電気伝達過程→内耳の生体電気現象→蝸牛が音情報に対するコーディングを実施
4.聴神経
聴神経の主な機能は蝸牛の有毛細胞の機械、電気情報を変換し、聴覚中枢へ伝えることです。情報伝達の過程の中で、神経情報は一定の方式に基づき伝送します。聴神経の刺激は全か無かの法則で伝播され、様々な形式のコードで神経インパルスは聴覚中枢へ作用し、異なる音調と音量の感覚が生まれます。
(2)聴覚中枢の生理
蝸牛が音情報を含む機械的振動を神経インパルスに変換した後、インパルスは特定のコード形式に基づき、蝸牛神経を経て聴覚中枢の通路へ伝わり、各レベルの聴覚中枢で処理をした後、最終的には大脳皮質に到達し聴覚が生まれます。
人体の聴覚は20~20000Hzの範囲で異なる周波数の音信号として聞き分けることができ、最も聞き分ける能力が高い場合、2つの音調が最小で1Hzの音が識別できます。
人体が音刺激の信号強度に対して感じる範囲は0~120dBで、音の強度の判別はとても敏感です。
聴覚は運動神経と感覚神経系が完全なフィードバック経路を構成し、このフィードバック経路の中で、受容器と効果器は全て蝸牛の有毛細胞です。
複雑な音情報の正確な識別と処理、加工は主に大脳皮質で完成します。人体の聴覚野は大脳側頭葉の横側頭回前部に位置しており、聴覚野は6つの異なる特徴と形態を有しており、異なる階層、配列の神経を元に、これらの神経の始まりの間には縦行的に連絡があります。聴覚野の神経の元は異なる周波数の音刺激を読み取る敏感なエリアがあり、その上、各列ごとの神経の元は同じ特徴の周波数を有し、聴覚野は聴覚情報の処理で、1組の神経の元がユニットを興奮させ進んでいくと説明しています。
大脳皮質の聴覚情報の処理については、まだはっきりと分かっていません。一般的に聴覚情報の最も基本的な処理は、中枢下部系および聴覚周辺で行われ、例えば音の周波数の識別は、主に1次ニューロンの同調機能で決定し、強度の識別はパルスを放出する1次ニューロンの数量により決定されます。1次ニューロンと脳幹は音調と音の持続時間を識別する重要な場所です。脳幹は両耳の音刺激を処理、感知する中心部位です。しかし、上記の情報の最終的な感知と決定は完全に聴覚野となります。このため、聴覚野は主に複雑な聴覚情報の処理と感知を引き受け、単純な信号の大部分は1次ニューロンと下位の神経核に集まり、まず加工と処理を行います。
聴覚中枢系のニューロンは相当大きな可塑性があり、元の発生した刺激信号が変化した時、聴覚中枢は機能の再構築することがあり、末梢から入ってきた信号が減弱した時、ニューロンは弱い信号に対し自動的に感度を上げることは注目に値します。
1.内耳の血液供給
内耳への血液供給のほとんどは内耳動脈から供給されます。この動脈は迷路動脈や内聴動脈とも呼ばれ、この細く小さな動脈の多くは前下小脳動脈、脳底動脈から起こり、その他は後下小脳動脈と椎骨動脈の頭蓋内部から起こります。内耳動脈を除き内耳の血液供給はごく一部の後耳介動脈と茎乳突動脈からです。
2.内耳動脈
内耳動脈は通常1~4本の枝があり、その直径は0.15~0.42mmの間で、内耳孔前縁と顔面神経の間を経て内耳道に入り、血管わなを形成し、顔面神経と内耳道前内側壁の間を走行し、内耳道底部に進み、顔面神経深部を経て前庭神経前上方へ達し、細い分枝を出す関連の神経を除き、主な枝は内耳道底部に入り、内耳に入ります。ある研究では、内耳動脈が形成する動脈わなは5つの種類があると表明しています。内耳動脈は内耳で更に前提動脈と蝸牛動脈に分かれ、前庭枝は卵形嚢、球形嚢、半規管に分布します。蝸牛枝は十数本の枝に分かれ、蝸牛軸内部に蝸牛螺旋管が分布します。
内耳動脈は椎骨動脈と脳底動脈から始まります。椎骨動脈は対になり、大後頭孔を通り頭蓋骨に入ります。両側の椎骨動脈にはそれぞれ最大の枝が1つあります。後下小脳動脈は、小脳半球の下面と脊髄の側面に分布し、分枝を出します。椎骨動脈は上昇し、延髄橋溝正中の部分で左右の枝が合流し、脳底動脈となります。脳底動脈はその起始部から1本の枝を出し、その最初の枝である前下小脳動脈は小脳下面前部に分布します。
内耳動脈が起こる椎骨―脳底動脈の位置に関しての報告には少し差違があります。Shalari(1994年)と陈合新ら(2000年)は内耳動脈の由来が前下小脳動脈から起こる割合は60%と74%と差違があり、残りが後下小脳動脈、脳底動脈、椎骨動脈と報告しています。
3.後耳介動脈と茎乳突動脈
後耳介動脈は外頚動脈の枝であり、耳介と乳様突起の間を上り、耳介の後ろの皮膚と後頭部に分布しています。後耳介動脈は茎乳突動脈を出し、半規管の一部に分布します。
前庭動脈、蝸牛動脈、茎乳突動脈の3つの動脈は全て終動脈であり、互いに補うことは出来ません。頚椎の病変が椎骨動脈に及ぶ時、椎骨動脈の血流が遮断され、脳底動脈の血液供給が不十分になり、内耳の血液供給に影響を及ぼし、めまいなどの症状を引き起こし、長期に持続すると耳鳴りや難聴を引き起こすことがあります。
4.後頚筋と椎骨動脈の関係
上頭斜筋と大後頭直筋の痙攣は直接、後頭下三角を通る椎骨動脈を圧迫し、椎骨動脈の血流に影響を与え、耳鳴り、めまい、頭痛などの症状が出現します。
例えば、後頭部の繋がりである小後頭直筋、頭半棘筋、頭板状筋、頭最長筋などの損傷、変性が継続すると筋の痙攣が起こり、環椎後頭腔が狭窄し、間接的にその中を通る椎骨動脈を圧迫し、椎骨動脈の血流に影響を与え、耳鳴り、めまい、頭痛などの症状が出現します。
5.頚部の交感神経と内耳の関係
頚部の交感神経は中耳の鼓室に小さな枝があり、交感神経の刺激は鼓室に影響を与える可能性があり、鼓室と内耳の繋がりを通じて耳鳴りを引き起こします。
6.頚部交感神経の概説
頚部の交感神経幹は頚部血管鞘の後方、頚椎横突起の前方、頚長筋の浅部で椎前筋膜の深部に位置し、神経幹の上部に上、中、下と3つの神経節があり、これは頚部の第1~4節が融合したものが上神経節、第5、6節が融合したものが中神経節、第7、8節が融合したものが下神経節で、それらの間には節間枝が相連なります。
7.頚部の交感神経と内耳の関係
上頚神経節は長細い形を呈し、交感神経節の中で最も大きく、第2~3、或いは第4頚椎横突起前方に位置しています。その上端から内頚動脈神経が出て、この分枝は内頚動脈に沿って後ろ側に上昇し、内頚動脈の内頚動脈叢を取り囲みます。内頚動脈叢は頸動脈鼓室神経を出し、続いて鼓室神経を形成し、鼓室後方に入り鼓室叢を形成し、鼓室、乳突蜂巣、耳管の粘膜に分布します。この内臓運動性線維は鼓室後方に出た後、耳神経節に到達し、置換され耳下腺を支配します。
この他に、第7頚椎横突起と第1肋骨前方に位置する下頚神経節(星状神経節)の節後線維は内頚動脈、頚椎・脳底動脈系の神経叢、鼓室神経叢、第Ⅵ、Ⅶ、Ⅹ脳神経の枝が内耳に入る成分があり、放射状になり動脈に分布しています。
これらの神経は豊富なアドレナリン性、神経ペプチド性線維があり、内耳の末梢循環調整に関与しています。
病因・病理
1.頚原性聴力障害の病因 内耳の虚血
感音性難聴は内耳、蝸牛神経、脳幹の聴覚路、聴覚中枢の病変により聴力障碍が引き起こされた総称で、聴覚系に構造的な損傷はないものの、聴覚機能が低下することを意味します。この発病の原因に関しては、内耳に供給する血流障害という説が、多くの学者の間では有力です。出血或いは閉塞は、内耳に供給する血流が突然遮断され突発性難聴を引き起こす可能性があります。この他に、感染(特にウイルス感染)、創傷、騒音、腫瘍、自己免疫疾患、中毒(特に耳毒性薬物)、情緒の高まり、睡眠不足、老衰などは難聴の原因に成りえます。メニエール病患者は内耳の膜迷路の水腫により、聴力低下が起こることがあります。
ここでは椎骨―脳底動脈が内耳に与える影響についてのみ、説明します。
耳鳴りの発生は以下の要素に関係があります。蝸牛及び蝸牛後部の病変、中枢性メカニズム、セロトニン系機能異常、皮質の可塑性の変化などです。
この中で最も重要なのは、蝸牛及び蝸牛後部の病変で、耳鳴り患者で内耳障害の原因は、相当数の症例が内耳の血流障害と関係があると、多くの学者が考えています。動物実験では、ウサギの内耳への血液供給を1分間遮断すると、ウサギの聴覚に不可逆的な損傷が生じることが分かりました。内耳は線条血管、内耳動脈、及び分岐した血管がおおむね末梢血管であるため、側副循環が無く、このため内耳の血流障害は容易に聴覚機能を障害します。
内耳の血流障害学説では、内耳の血液供給である迷路動脈のある終末枝に血栓、塞栓が形成、血管の痙攣が起こると、突発性難聴が発生し、耳鳴りの症状の発生は内耳に供給する血流障害により、基底膜上の外有毛細胞が損傷し、近くの正常な外有毛細胞が代償的に自身の活動を増加させ、このような過度な活動が聴閾を超えるため、耳鳴りとして感知される。と考えられています。
内耳の血流障害の原因は多くの要素と関係があり、例えば頚椎病(椎骨―脳底動脈の血流低下)、高脂血症、血管病変、内耳血管の痙攣、内耳の末梢循環障害、ミトコンドリアの病変、赤血球の変形能力、貧血、頸動脈の構造異常などがありますが、この中で頚椎病が引き起こす内耳の虚血はよく見られます
動物実験では、頚椎の病変が引き起こした椎骨―脳底動脈の虚血が内耳の循環障害を引き起こし、進行すると蝸牛の病変が出現しました。ウサギの頚椎横突起付近に組織硬化剤を注射し椎骨動脈型の頚椎病モデルを作りました。このモデルはウサギの頚椎に大量の瘢痕組織を形成し、注入した側の椎骨動脈壁は線維化し、椎骨動脈と瘢痕は広範に癒着し狭窄を引き起こしました。椎骨動脈の平均血流速度は低下し、抵抗と心拍数は上昇しました。レーザードップラー流量計でこのモデルウサギの内耳血流を計測した結果、正常ウサギ対照群と比較して2週目のモデル群の内耳血流に有意差が無いことが示されました。モデル4週目とモデル8週目は明らかに対照群に対し低く、モデル8週目はモデル2週目とモデル4週目に対し低い結果でした。研究者は更に椎骨動脈の平均血流速度を測定し、脳底動脈の平均血流速度、内耳動脈の血流量を基にそれらの相関関係を統計学的に分析しました。その結果、モデル群の椎骨動脈の血流速度と脳底動脈の血流速度は対照群に対し明らかに低い結果でした。脳底動脈の平均血流速度と椎骨動脈の平均血流速度は明らかに相関関係がありました。内耳の血流量と脳底動脈の平均血流速度は、明らかに相関関係がありました。上記の結果を説明すると、椎骨―脳底動脈の血流低下は明らかに内耳の慢性的な虚血状態を引き起こし、虚血の程度は病変が長いほど増悪しました。
この実験では更にモデルウサギの聴覚脳幹反応(ABR)と蝸牛電位図(EcochG)の変化を測定しました。その結果、①10Hz低刺激率ABRは明らかな変化が見られませんでした。50Hz高刺激率ABRのⅢ、Ⅳ波の波潜伏期(PL)とⅠ~Ⅲ、Ⅰ~Ⅳの波頭間の潜伏期(IPL)は明らかに延長し、脳幹聴覚伝導路の減速が主に末梢神経により急に引き起こされていることが分かりました。これは臨床で内耳性の慢性椎骨―脳底動脈の血流障害の表現と一致しました。②モデル群の6kHz内耳神経の動作電位(AP)閾値は1kHzのAP閾値に対し、明らかに高く、即ち高い周波数の聴力低下は低い周波数の聴力低下より顕著で、これは臨床上の感音性難聴の表現と一致します。これは椎骨―脳底動脈の血流障害が引き起こす内耳損傷は蝸牛底部の損傷が主で、慢性迷路虚血聴力障害の法則と合致するのです。
上記の実験で、頚椎病の病理変化→脳底動脈血流低下→内耳の虚血→蝸牛の損傷→聴力障害の因果関係が証明されました。まとめると、解剖構造上、内耳動脈は主に椎骨―脳底動脈から来る特徴があり、この病理の因果関係があると理解できます。
2.頚原性聴力障害 頚部交感神経節の刺激
上記の解剖構造から、第2~3或いは第4頚椎横突起前方にある、紡錘形の上頚神経節は、交感神経幹の中で最大の神経節であることが分かります。この神経節は順繰りに内頚動脈神経、内頚動脈神経叢、頸動脈鼓室神経、鼓室神経、鼓室神経叢が出て、鼓室と乳突蜂巣、耳管の粘膜に分布します。この内臓運動性線維は鼓室後部に出て、耳神経節に終わります。第7頚椎横突起と第1肋骨頚前方の下頚神経節(星状神経節)の節後線維は内頚動脈、椎骨―脳底動脈周囲の神経叢、鼓室神経叢、第Ⅵ、Ⅶ、Ⅹ脳神経に沿った成分があり、内耳に入り、放射状になり動脈に分布しています。このような解剖学的関係から頚椎の椎体は変位(回旋、屈曲、伸展など)が生じ、椎体前縁に骨質が増殖し、椎体前方に軟部組織の病変が生じると、上頚神経節に刺激が生じ、上記の神経の繋がりにより、内耳に異常な電気信号が発生し、更には耳鳴りが出現します。
この他に椎骨脳底動脈から内耳の血管までの経路(椎骨動脈→脳底動脈→内耳動脈→前庭動脈→蝸牛動脈)上で、血管壁に頚部交感神経の節後線維が分布し、上頚神経節の交感神経節後線維が僅かに椎骨動脈壁上に直接分布しています。これらの神経線維の主要な部分は椎骨動脈壁の上部に分布し、即ち椎骨動脈のC4横突孔上端から脳硬膜を貫くまでです。
人体の中頚神経節の出現率は87%で、中継神経節から出る交感神経節後線維の主な部分は椎骨動脈中部に分布し、即ち椎骨動脈が横突孔に入り、C1横突孔上端までです。次に中頚神経節と下頚神経節が共に椎骨動脈下部に分布し、その他に僅かな節後線維が椎骨動脈の上部に分布します。陈秀清が人体の標本を観察した記録によると、中頚神経節、或いは節間枝の交感神経は通常、C4~C5或いはC5~C6の横突間隙に椎前筋が入り、椎骨動脈前内側、鈎状突起、に達し、椎骨動脈周囲で神経輪を形成します。
星状神経節からの交感神経は椎骨動脈の頭蓋外側側全体に分布することもありますが、主に椎骨動脈の中下部、つまり椎骨動脈からC4横突起まで分布しています。椎骨動脈から横突孔前部までの部分には、より多くの線維が存在しています。
全体として、椎骨動脈壁全体における交感神経節後線維の分布は比較的限定的です。つまり、下頚神経節は椎骨動脈下部と中部を担当し、中頚神経節は中間と上部を担当します。椎骨動脈の上部には僅かな節後線維が分布しています。ただし、局所の末梢神経自体は広範囲の吻合枝を持っているため、この分節性は機械的に分けることは出来ません。このような分節性はその主流が代表となります。
それゆえ、頚部交感神経節の刺激は椎骨―脳底動脈系の脈管運動に変化をきたし、内耳の血液供給に影響を与え、内耳の末梢循環障害を引き起こします。この結果、内耳の微小循環は椎骨―脳底動脈系の血流の直接的な影響を受けるだけでなく、自律神経や局所的な調節の影響も受けます。大日向(1997)はカラー超音波ドップラーを用いて、突発性難聴患者の星状神経節遮断前後の総頚動脈と椎骨動脈の血流速度、血流量、血管断面積を測定しました。星状神経節を遮断前後は同側の総頚動脈、椎骨動脈の血流量、血流速度、血管径、横断面積が全て増加し、この増加は脳血流を改善させただけでなく、蝸牛の血流も相応の改善がみられました。このことから、星状神経節の遮断は頭顔面部と大脳の自律神経機能を調整し、交感神経の血管収縮作用を遮断し、内耳血管の痙攣を解除し、血管径を拡張し、血流量と血流速度を増加させ、内耳の微小な循環障害を改善させ、内耳のリンパ節と赤血球の流れが滞ることを軽減し、これにより難聴や耳鳴りが治癒に至ることが分かります。
以上で述べたのは、頚椎と内耳の間には複雑な神経と血管の関係が存在し、このため、頚椎病変が聴覚障害の発生に対し、とても重要な影響があるということです。
耳鳴発生のメカニズム
聴覚系は3つの重要な特徴があります。①聴覚経路の各レベルで、特に末梢神経に自発的、随意的な電気信号があります。②聴覚系は外界の音の大きさに対しその感度と出力比を連続的に調整しています。③聴覚系には中枢抑制とフィードバック抑制があります。
正常な状況では、外界の音は聴神経線維間の活動とシンクロし神経線維自体が発する電気活動は音として感じられません。人が非常に静かな防音室にいる場合、または難聴になった場合、聴覚系は自動的に出力比を調整(増加)し、それに応じて皮質―オリーブ蝸牛束の中枢抑制機能を低下させます。従って、神経線維の自発的な電気活動は皮質下中枢で計測でき、聴覚野に届き耳鳴りとして感知されます。皮質下中枢は検出された耳鳴り信号を大脳辺縁系または自律神経系に伝達しますが、これらの系統が激しく活動すると、一方では皮質下中枢が耳鳴りを検出しやすくなり、一方では耳鳴りと負の感情の密接な関係が条件反射として形成し、長期にわたる重度の耳鳴りはこの条件反射を強化し、最終的には耳鳴りと悪い感情の間に悪循環を形成します。同時に大脳辺縁系の激しい活動により記憶プロセスの中で、耳鳴り信号が不快な信号として中枢に記憶されます。蝸牛機能が完全に回復した後も、中枢には耳鳴りと不快な感情が残る場合があります。したがって、中枢過敏症は長期にわたる重度な耳鳴りの重要なメカニズムです。耳鳴りの初期の病巣は蝸牛にあると考えられていますが、主な病理学的プロセスや中期以降の病巣は中枢神経系にあります。
関連する脳機能画像研究では、耳鳴り患者は側頭葉聴覚野の代謝活動が高いか、局所的な脳血流が増加していることが分かっており、脳には耳鳴りの原因となる「耳鳴り中枢」がある可能性を示唆しています。
耳鳴りによる内耳の損傷は、最初は蝸牛の基底部で発生し、その後徐々に他の部分へ広がります。損傷された性質である虚血、炎症、占拠した病変が、聴覚経路の水腫や部分的な線維の脱髄をきたし、電気活動の変化を発生させます。EnrenbergerやBrixは主観性耳鳴りの大部分は内有毛細胞及び、そこに入る神経の間のシナプスで起こると主張しています。Eggermontは更に、主観性耳鳴りは蝸牛に入るシナプスで起こるという仮説を実証しました。
臨床症状
頚原性聴力障害の臨床表現は主に3つに分けられます。1つ目は耳鳴り、聴力低下が伴う場合と伴わない場合があります(後者は9%)、耳の閉そく感、耳のかゆみ、耳痛など、2つ目は随伴症状でめまい、頭痛、倦怠感、不眠、いらだつ、焦慮する、緊張、動悸、異常発汗など、3つめは頚部症状で、後頚部の不快感、疼痛、冷え、一部の患者に上腕のしびれ、疼痛、手指のしびれなどの症状があります。
診断
1.診断の要点
この疾病の診断は困難ではなく、主要な症状である耳鳴りと聴力低下以外に、関係する検査(X線、聴力測定)検査を行い、頚椎病の病変や聴力低下の程度や性質を理解します。同時に「耳鳴り分類調査表」や耳鳴り質問表を使い、耳鳴り症状を評価することは、病状を理解する補助になります。
2.難聴の診断
① 病歴及び耳科検査
病歴の質問を通じて、難聴の発症時間、過程と特徴、主な随伴症状と可能性のある誘因を把握し、病歴を聞く際に外傷歴の有無、過去と現在の薬歴、家族歴を質問します。
②聴機能検査
③純音聴力検査
純聴力計は電気音声学原理を利用して設計され、様々な異なる周波数の純音を出力でき、その強度を調整できます。純音聴力検査は耳の聴感度を計るだけでなく、聴覚損傷の程度を把握することが出来ます。そして難聴のタイプと病変部位の初期的な判断が出来ます。
通常の純音聴力計が出力する周波数の範囲は125~8000Hzの純音で、低、中、高の3段階に分けられます。250Hz以下は低レベル、500~2000Hzは中レベル、4000Hz以上は高レベルです。超高レベルの純音聴力の周波数範囲は8~16kHzです。
音の強さはdb単位で測定され、患者の純音聴力検査に基づいて純音聴力閾値を作成して、純音聴力閾値チャートの異なる特性に基づいて、難聴を伝音性難聴、感音性難聴、混合性難聴に分類できます。この結果に基づき、難聴の初期診断を行い、脊柱原性の聴力障碍は、感音性難聴と表現されます。
伝音性難聴:骨導は正常又は正常に近く、気導閾値が高い。気導骨導の間に距離があり、気導曲線は平坦、或いは低周波聴力の障害が比較的重く曲線が上昇することもある。
感音性難聴:気導骨導曲線は共に下降する。気導骨導差は無い(3~5dBの誤差は許容)。通常は高周波数の聴力低下が著しい。故に聴力図は徐々に下降するか急に下降する。重篤な感音性難聴の聴力曲線は島状を呈し、割合は少ないが感音性難聴で低周波の聴力低下が主なこともある。
混合性難聴:伝音性難聴と感音性難聴の聴力図の特徴があり、気、骨導曲線は共に下がるが、一定の気骨導差がある。
3.耳鳴りの診断
(1)耳鳴りの性質
a) 耳鳴りの時間特性
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- 急性、亜急性、慢性:数日以内に発生した耳鳴りを急性として、4~12か月を亜急性、12カ月以上を慢性とします。
- 断続性、持続性、波動性、拍動性:耳鳴りが5分に満たない人はほとんどが正常です。断続性耳鳴りは聴覚系で発生した短期的機能失調で、回復の見込みがあります。メニエール病の耳鳴りは波動性のことが多いです。動静脈瘤や頚静脈球腫瘍などが拍動性の耳鳴りを引き起こします。
b) 耳鳴りの音調
-
- 低調、中調、高調:感音性難聴は高調耳鳴りを伴うことが多く、中耳疾患は低調、中調耳鳴りを引き起こすことが多いです。
- 単調、復調、可変調:後者の2つは様々な病理過程があることを示唆しています。
- 類似音:患者が訴える類似音として、セミの鳴き声、機械の音が鳴り響く音、電気が流れるような音、雨音、風が吹く音、ハエなどの羽音、汽笛の音があり、これらは概ね主観性耳鳴りです。客観性耳鳴りは物がきしむ音、堅い物が当たる音、血管の拍動音で音楽の音は音楽家に特有の耳鳴りです。
c) 耳鳴りの分類
- 主観性と客観性:耳鳴り一種の主観的な感覚として定義されるため、主観的耳鳴りと客観性耳鳴りの分類は正確ではありません。しかし、耳鳴りの中で患者自身が感じるだけでなく、他人も聞こえることが確かにあり、この耳鳴りを客観性耳鳴りといい、臨床では主観性と客観性を分ける必要があります。脊柱原性の耳鳴りは主観性耳鳴りです。
- 生理性と病理性:健常人は両耳を塞いで耳鳴りがしたり、とても静かな、或いは防音室に入る時に耳鳴りがしたり、側臥位で片側の耳が枕に触れていると血管の拍動音が聞こえることがあり、これらが生理性耳鳴りです。頚椎症や炎症、腫瘍、奇形、外傷などで引き起こす耳鳴りを病理性耳鳴りといいます。
- 耳原性と全身原性:耳の疾患が引き起こす耳鳴りを耳原性耳鳴りといい、全身疾患が引き起こす耳鳴りを全身原性耳鳴りといいます。脊柱原性聴力障害は全身原性耳鳴りです。
- 精神性と偽装性:ヒステリー傾向の人が突然、精神的に大きなダメージを受けると、精神性、或いはヒステリー性耳鳴りが容易に起こります。大げさに耳鳴りの苦痛を装うのを、偽装性耳鳴りといいます。
- 代償性と非代償性:耳鳴りが非常に軽いと、第一の主訴とならず、病歴を聞いていく中ではじめて耳鳴りの存在がわかります。しかし、耳鳴りでいらいらすることは無く、既に適応し習慣化しているものを、代償性耳鳴りといいます。耳鳴りにいらいらする、焦慮する、睡眠や仕事、学習に影響があるなど、適応と習慣化出来ていないものを非代償性耳鳴りといいます。
d) 耳鳴りの程度判定
耳鳴り患者自身の自覚症状を定量化する方法は無く、その上、耳鳴りの感じ方と患者の年齢、性別、体質、職業、教育程度などの要素は一定の関係があり、従って臨床で耳鳴りの程度、比較は困難です。以下に今のところよく使われる耳鳴りの程度判断方法を述べます。臨床ではこれらを総合して耳鳴りの程度を判断します。
- 耳鳴りの程度評価
耳鳴りの程度により6段階に分けます。患者自身に判断してもらいます。
0 | 耳鳴りがない。 |
1 | 耳鳴りの音量はわずか、耳鳴りが有ったり無かったりする。 |
2 | 耳鳴りの音量は軽度、しかし間違いなく聞こえ、静かな環境で出現し、日常生活(睡眠など)や仕事に影響がない。 |
3 | 比較的ひびくような耳鳴りで、通常の環境で概ね聞こえるが、日常生活と仕事に明らかな問題はない。 |
4 | 如何なる環境でも概ね耳鳴りが聞こえ、かつ睡眠に影響があり、注意力や集中力に欠け、仕事に軽度な影響がある。 |
5 | 大きく響く耳鳴りで、口論しているような感覚で、重度だと睡眠や仕事に影響があり、軽度のいらいら、焦慮、不安などの精神症状が出始まる。 |
6 | 非常に響く耳鳴りで、患者が体験してきた最も響く環境音(飛行機が離陸する音など)に匹敵し、1日中耳鳴りで困り、眠れず、完全に仕事は不可能となる。かつ明らかな焦り、不安、焦慮などの精神症状が出現する。 |
中国でよく使用される質問表
項目 | 無 | 軽 | 中 | 重 | 超重 |
1.耳鳴りが生活の楽しみに影響する | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
2.自身の耳鳴りが近ごろ増悪した | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
3.耳鳴りが音源の方向を識別する能力を妨害する | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
4.耳鳴りによりテレビ番組の理解に影響する | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
5.耳鳴りにより騒音の環境を避ける | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
6.耳鳴りにより騒音の中で言語理解に影響がある | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
7.耳鳴りにより社交的な場所でくつろげない | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
8.耳鳴りによりよく早朝覚醒する | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
9.耳鳴りにより精神が集中できない | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
10.耳鳴りにより家族関係に影響がある | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
11.耳鳴りにより憂うつになる | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
12.耳鳴りにより周囲の人との付き合いに影響がある | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
13.耳鳴りにより精神的な緊張がある | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
14.耳鳴りにより完全にリラックスできない | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
15.耳鳴りにより不平を言うことが日増しに増えた | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
16.耳鳴りにより夜間の睡眠が困難である | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
17.耳鳴りによりだるくて眠い感覚がある | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
18.耳鳴りにより体の不安定感がある | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
19.耳鳴りにより全身の不快感がある | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
20.耳鳴りにより自身と親族の関係に影響がある | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
21.耳鳴りにより言語理解能力が低下した | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
22.耳鳴りによりうんざりする感覚がある | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
23.耳鳴りにより他人との会話で反応が鈍い | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
24.耳鳴りにより心配して思案する | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
25.耳鳴りにより治療の自信に影響がある | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
26.耳鳴りにより自尊心に影響がある | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
27.耳鳴りにより常に挫折感がある | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
合計得点 |
点 |
針刀治療その他
頚原性聴力障害の治療は2つの側面に分けられます。一つは頚椎に対しての治療で方法は針刀術、手技療法、鍼灸治療、牽引などです。もう一方は耳に対しての治療で、これは主に鍼灸治療です。臨床では上記の頚椎の治療法法は頚椎の軟部組織の病理状態の改善に有効で、頚椎椎体の病理変位を正し、頚椎の生物学的状態を改善し、頚椎―脳底動脈の局部環境を改善し、ゆえに内耳の血液供給を増加させ、内耳の慢性虚血状態を改善し、聴力障害の回復に有利となり、このような治療は本質を治す方法であると証明されています。鍼灸の臨床は鍼が耳鳴りと感音性難聴に対し一定の効果があることを証明しています。動物実験で蝸牛の神経細胞が十分に再生することが証明されています。したがって、内耳の病変は少なくとも可逆的といえます。
一.頚椎症に対する鍼治療
a) 頚部の鍼灸
頚原性障害を形成するメカニズムを基に、頚椎病変が椎骨―脳底動脈系と関連の交感神経が刺激を受けることが密接な関係にあり、このことが重要な要素の一つと考えています。この病理メカニズムは、直接耳鳴りを引き起こすだけでなく、多く見られるのは内耳の血流減少で、それにより内耳は慢性的に虚血状態となり、後頭下筋の張力が変わり、椎体の回旋、転移がよく見られる要素です。椎骨動脈は頚椎の横突孔内を通り、様々なレベルの椎体の回旋、転移により、椎骨動脈が牽引されます。椎骨動脈の上部は上頭斜筋の深部が走行しへばりついています。後頭下三角を構成する後頭下筋は労作性損傷などで張力が異常に高まり、直接椎骨動脈を圧迫します。交感神経の上神経節、中神経節、星状神経節が椎骨動脈レベルに交感神経を分布させていることから、後頭下三角筋(大後頭直筋、上頭斜筋、下頭斜筋)が椎骨動脈の圧迫に対し、交感神経の興奮性を直接増強させるので、椎骨動脈の痙攣を引き起こし、椎骨動脈の血流低下を引き起こし、内耳への血流供給に影響を及ぼすのです。
従って、頚原性聴力障害の治療方法は頚部の筋群を緩めることが主となります。
b) 鍼灸治療
- 取穴
上項線の圧痛点、頚部夾脊穴、肩甲挙筋、後斜角筋、中斜角筋、前斜角筋
- 刺鍼方法
直径(0.30~0.50mm)の鍼を使用し、頚部夾脊穴、肩甲挙筋、後斜角筋、中斜角筋、前斜角筋は各列4~5本ずつ鍼を入れます。頚部夾脊穴は上項線まで鍼を入れます。
- 星状神経節の遮断
星状神経節遮断の具体的操作方法は後で述べていきます。星状神経節遮断が耳鳴りの治療で用いられるのは既に長い歴史があります。この治療は交感神経の節前節後線維を遮断し、中枢の血管収縮機能を調整し、脳潅流を低下させず、脳の自己調節機能を維持する前提の元、支配区域の血管緊張度を低下させ、その区域の血流を改善させ、同側頭蓋内の動脈血流と総頚動脈の血流が増加し、視神経乳頭、網膜周囲の血流量と蝸牛の血流量が増加し、局部の虚血が引き起こす病変を治療し、これは頚原性耳鳴りの治療で求められることと合致しているのです。
二.患側耳に対する鍼灸治療
-
- 取穴
耳門、聴宮、聴会、翳風、神庭、百会、聡耳1~3(取穴法:3穴はおよそ耳介と頭側面皮膚が交わる陥凹部で、耳介の縦軸上端が聡耳1です。聡耳1と翳風の接線を3等分に分けて、上と下に分けた点が、それぞれ聡耳2と聡耳3)。
- 主要穴の刺鍼方法
耳門、聴宮、聴会:直径0.18mm、長さ40mmの毫鍼を使い、約25mm刺入します。
翳風:上記と同じ鍼を使い、25mm刺入します。
聡耳:直径0.20mm、長さ25mmの毫鍼を使い、約13mm、耳軟骨と側頭骨の間に刺入します。
思考と理解
1.耳鳴の複雑性
耳鳴は良く見られる臨床症状で、約1/5の人が一生の中で耳鳴を経験しているといわれています。短時間で軽微な耳鳴はこの疾病に属さず、耳鳴が明らかに仕事や生活に影響を及ぼし、患者が強く医療へ救いを求める時に、この疾病を対処するのです。
全世界で耳鳴の研究はこの疾病に関して大きく立ち遅れている状況です。多少の研究の進展があったものの、耳鳴りの確かな原因は依然としてはっきりせず、この発病メカニズムと原因は複雑で他分野にわたります。このため、耳鳴りの診断には大きな困難が伴います。前文で述べたように、耳鳴などの症状は耳科疾病だけでなく、その発生は多くの要素と関係があり、多くの患者の耳鳴は耳科疾患と直接関係のない疾患から来た可能性があります。従って、今後は他科との連携や鍼灸の役割が重要になります。
耳鳴の診断を客観的に行うことは困難で、画像検査もやはり不可能、或いは十分ではありません。臨床実践では、これらの器質的病変が引き起こす確かな病因は、例えば神経腫、鼓室血管腫、頚静脈球腫瘍、内耳奇形、内耳道脂肪腫、脳血管奇形などがあると表明しています。器質的病変の発見は逆に一部の耳鳴患者には“良い知らせ”かもしれません。なぜならば、多くの器質的病変は根治が可能であり、非器質的病変は短期的に治癒する方法が無いことを意味します。
2.拍動性耳鳴
我々の臨床では、拍動性耳鳴はおよそ耳鳴り患者全体の10%を占めていると明らかにしています。この耳鳴の典型的な特徴は、耳鳴りがはっきりしており、心拍と一致したリズム性で、かつ片側の総頚動脈、或いは外頚静脈を圧すると、即座に耳鳴が軽減します。この耳鳴は通常、頭蓋内の血管病変(動脈狭窄或いは動静脈瘤)に属し、血管介入治療がこの耳鳴を解決する標準的な治療法です。
頚原性聴力障害の治療過程
本文で述べたように、狭義の頚原性聴力障害は椎骨―脳底動脈系の血流量低下が内耳動脈の血流量低下を引き起こし、内耳の長期にわたる慢性虚血状態により、蝸牛内の有毛細胞などの神経細胞の損傷が、難聴、耳鳴などの病変を引き起こします。今のところ、一つの病因を確認する方法として「経頭蓋ドプラー」などの血流動力学検査に頼り、内耳の血流量を直接評価する術はありません。
理論上、内耳の血液供給により、有毛細胞などの神経細胞損傷の修復が促進し、それにより聴覚機能の回復に有利となりますが、その過程はかなり時間がかかります。栄養状態が保障された前提で、神経組織の修復は通常3カ月以上の周期が必要で、このため、聴力障害の治療で、短時間で明らかに症状の改善をするのは、想像しがたいのです。例えば同じ栄養欠乏で落葉した大きな木で、庭師が真面目に水をかけても、葉が茂った光景を想像するには時間が必要です。
このような認識に基づき、頚原性聴力障害の治療は1カ月を1期間の治療とします。治療過程の中で、まず3~4回施術を行い、症状に変化があれば治療を継続し、1カ月ごとに治療効果の評価を行います。李石良はかつて7ヶ月耳鳴を治療し、耳鳴りが消失した症例があります。
頚部治療のメカニズム
頚部の関節を安定させる脊椎付近の軟部組織(筋肉、靭帯など)が急性および慢性の損傷後の動的バランスの不均衡と、それに伴う頚椎の生力学的平衡失調は頚椎症発症の根本的な原因の一つです。臨床上、脊柱管内外の軟部組織病変である筋肉、靭帯、関節包の痙攣、及び小さな関節の転移、椎体が力学的平衡の破壊を受けた場合などで、椎骨動脈や脳底動脈が刺激され、交感神経の刺激を引き起こし、それにより動脈の痙攣を起こす場合があります。筋肉、筋膜の痙縮、痙攣は臨床でよく見られる椎骨―脳底動脈の血流異常の要素の一つで、頚部が長期にわたり不良姿勢を続けることで、筋膜、筋肉、靭帯が疲労性損傷となり、椎骨動脈や脳底動脈を圧迫し、椎骨動脈と脳底動脈の血流動態に変化が生じ、椎骨動脈や脳底動脈の血液供給に影響し、それゆえに頭痛、悪心、嘔吐、めまい、耳鳴、聴力障害など一連の症状を引き起こします。重症者は突然に失神するなど思いがけない事態になることもあります。椎骨動脈の上頚部が上頭斜筋の深部を貼りつくように走行し、後頭下三角筋の損傷により、張力が異常に高くなった時、直接椎骨動脈を圧迫します。交感神経の上頚神経節、中神経節、星状神経節は皆、椎骨動脈後頭下部に交感神経の枝があり、後頭下三角筋による椎骨動脈の圧迫は、交感神経の興奮性を直接増強し、椎骨動脈の痙攣を引き起こし、椎骨動脈の血流を更に低下させます。
頚部の治療は後頭下筋だけでなく、頚部の夾脊穴、中斜角筋、前斜角筋、肩甲挙筋、後斜角筋を緩めることが重要です。針刀理論では「一方では鍼の作用を利用し、局部の穴を刺激し、全体を調整し疾病を治療します。他方では、外科手術の刀(メス)の作用を発揮し、局部で癒着した筋膜、筋肉、靭帯などを切開、ほぐし、適切な手技の補助治療を加え、癒着を剥離し、筋肉をほぐし、骨と関節の軽微な転移を正し、局部の血液循環を回復させ、発痛物質であるブラジキニンやセロトニンの含有量を低下させる」とあります。頚部の筋緊張が強いケースは直径0.4mm~0.5mm程度の鍼が必要になります。これらの治療により、病因を取り除き、頚椎の正常な解剖関係を回復させ、神経や血管の刺激と圧迫を解除し、骨と関節の安定性を回復させ、根本的に椎骨動脈の刺激と圧迫を除去でき、椎骨―脳底動脈の血流を改善させます。更にいうと、鍼を入れる過程で、僧帽筋、胸鎖乳突筋、頭板状筋、頭半棘筋、頭最長筋などの筋肉を緩め、及び浅・深筋膜や項靭帯これらの治療も椎骨動脈と交感神経の刺激と圧迫を軽減、解除する補助になります。
局所治療のメカニズム
頚原性耳鳴のメカニズムの一つは内耳の末梢循環障害です。内耳の血液供給は単一の内耳動脈で終末枝に属し、側副循環は無く、各感覚器の前部でヒモ状或いは螺旋状を呈し走行し、循環障害が起こりやすく、有毛細胞の酸欠により聴覚障害などの一連の病理変化が出現します。最近の研究では、耳鳴り患者の血液粘度が明らかに高く、内耳に微細な循環障害の状況で血流の低下、或いは停滞を示し、微細な血栓が形成し易く、抵抗を受ける血管の最大半径は大きくなり、太い毛細血管の中で逆転現象が起こり、循環障害を強めることが明らかになっています。末梢循環障害は必然的に聴覚器官の栄養供給に影響を与え、特に脆弱な有毛細胞は酸欠により変性し易く、聴力低下や耳鳴りが出現します。鍼を刺すことは生命体の循環促進に対し重要な手段の一つです。刺鍼は毛細血管の律動的な運動に対し影響を与えると研究で明らかになっており、穴局部の刺鍼で毛細血管の律動的運動の頻度に変わりなく、振幅の増加が60%以上あり、同時に刺鍼停止後、毛細血管の律動性血流量は増加を続け、刺鍼30分後、毛細動脈と毛細静脈の最大口径はその拡張レベルにより最初の値の150%,200%,250%になります。末梢循環血流動力学研究による刺鍼の結果は、刺鍼は明らかに末梢循環血流速度を増加させ、刺鍼後20分に最高値に達しました。その中で末梢動脈の流速は刺鍼前と比べて30%増加し、末梢静脈の流速は刺鍼前と比べて25%増加しました。聡耳1~3は李石良の経験による穴で、穴の位置は考えが決まっているわけでなく、“その付近の位置で気が通じ合う”このような鍼灸治療学の共通の法則によるもので、歴代の専門家も共通認識を持っています。
以上述べたように、最近の研究では刺鍼が局部循環に影響を与えることが証明されています。刺鍼は神経や体液の調整、脊椎、関節、筋肉、靭帯などの組織構造と神経、血管などの近隣組織の良い反応を通じて、脊柱内外の環境を改善し、バランスを取る方向に向かわせ、それにより椎骨―脳底動脈の血流が改善します。風池穴の刺鍼は脳血管に対し鎮痙、拡張と収縮の二重作用があり、聴宮などの刺鍼は動物の蝸牛循環と細胞への栄養供給を改善させ、有毛細胞の壊死を減少させます。伝統的な経穴の中で、手の少陽三焦経の角孫、顱息、瘈脈、この3穴は耳周囲に位置し、この3穴は耳根部から約10mmの距離にありますが、耳疾患の治療ニーズに対して満足させ難いです。李石良は研究で3穴の部位を照らし合わせて、耳根部に新しく位置を決め、聡耳1~3と命名しました。治療時に毫鍼で耳介軟骨と頭蓋骨の間の間隙の中を刺入し、聡耳1~3に明らかな治療効果があることを証明しました。